・【違和感の金曜日】


 登校してくると、真凛と瑠璃が普通に会話していて、良かった、仲直りしたんだとホッと胸をなで下ろした。
 俺は席に着いたところで、真凛は別の友達と会話し始めたようで、瑠璃だけがこっちに寄ってきて、
「おはよう! 今日も最高の朝!」
 と言って笑ってきて、なんて上機嫌なんだ、俺は瑠璃に言いふらされないかどうか心配なのに、とちょっとモヤっていると、瑠璃の大きな声に反応して振り返った真凛が、ビックリした顔をしてから、すぐに真凛もこっちへ駆け寄ってきて、
「おはよう! アタシも最高!」
 と声を出すと、矢継ぎ早に瑠璃が、
「張り合うねぇ」
 と少しねちっこく言うと、真凛が、
「当たり前じゃぁん」
 と真凛もねちっこく返して、何だろうこの言い合いと思いつつも、
「二人ともおはよう」
 と答えると、瑠璃がムッとしながら、
「あたしが先に言ったんだから、まずあたしへ個別の挨拶してよっ」
 そんなことでムッとするなんて、と思いつつ、まあこのくらいの感じならトラウマも発動しないし、まあいいか、と思って、
「最高の朝だなんて上機嫌だな」
「勿論! 高校最高!」
 とバンザイして、何かハイになる薬でも飲んだのかなと思った。
 まあそんな感じで挨拶は終わったかなと思っていると、真凛が、
「えっ? アタシへの個別は?」
 とちょっと冷たく言ってきて、えっ、とは思った。
 でもそうか、そうなるか、と思って俺は、
「おはよう、朝はさることながら、自分も最高って絶好調だな」
「だって夢限と一緒だもん!」
 と言って、何そのノリ、とは思った。
 そう言った真凛へ瑠璃が、
「えぇー、あたしはクラスメイト全員最高の気分だから、真凛と違ってそんな心狭くないよ、一人だけじゃないよぉ?」
 と少し煽るようにそう言って、いや仲直りまだしていないのかな? それともそういう喧嘩のノリなのかな、と思っていると、真凛が、
「アタシだってみんなに対しても最高って思ってるしー」
 と棒読みっぽく言った。
 そんなところで昇介もやって来て、
「仲直りしてんじゃん!」
 とハッキリ昨日喧嘩していたことを声に出して、それはそれで強者だなぁ、と思っていると、瑠璃が、
「別にそもそもそんなんじゃないしぃ!」
 真凛も、
「そうそう! 女子っていろいろあるもんなの!」
 と言って昇介は優しく笑いながら、
「そっかぁ、でも良かったぁ、おれはさ、やっぱりみんな仲良いほうが良いからさ、おれも夢限も心配していたんだぜ?」
 俺もそれには同調しながら、
「そうそう、急に、だったからちょっと怖かったよ」
 真凛はサムズアップしながら、
「もう全然大丈夫! 話し合いは終了!」
 瑠璃はギャルピースしながら、
「ヨユーっす」
 と言うと、真凛が、
「それをやるなら”ヨユーっち”と言ってサムズアップでしょ!」
 とツッコんだんだけども、瑠璃も昇介も頭上に疑問符を浮かべているので、
「ゲームのキャラクターな、ゲームのキャラクターの台詞な」
 と簡易的にツッコんでおいた。
 やっぱり真凛っていろんなゲームが好きなんだなぁ。
 朝の時間も終わり、授業をこなして昼休みになった瞬間から真凛がこっちへやって来て、
「何か最近面白い動画ある?」
 と聞いてきたので、ゲーム実況の話をすると、真凛も興味津々といった感じで食いついた。
 マジでこういう他愛も無い話できるのは嬉しいけども、言いふらされたら『キモイ』で一変するんだろうな、という危機感は常にあって。
 でも瑠璃が言いふらさなければ大丈夫というところもあるし、いやそもそも言いふらされたとしても言い訳はもう考えているわけだし、そこまでヤバくない、いやヤバイはヤバイか。
 まあとにかく瑠璃の機嫌は常にとっていかないとなと思ったところで、瑠璃もこっちへやって来た。
「なになに? 何かおもろ話してる?」
 そう言った刹那、真凛は急に、
「でもそっか、ゲーム作りもそろそろ終盤戦だよねぇ」
 と言って話題を変えたので、何なんだと思ってしまった。
 だって、
「真凛、瑠璃にも分かる話をしようよ。せっかく来てくれたんだからさ」
 そう、瑠璃の機嫌はとるに越したことない上に、そもそも友達なわけだから、みんなが分かる話をすることは当たり前だ。
 その前段階でゲーム作りの話を既にしていたのなら別にいいけども、そういうわけでもないし。
 すると真凛が、
「でもゲーム作りもしっかりやらないとダメだからさぁ」
 瑠璃は少しムッとしながら、
「それは放課後どうせ二人っきりでやるんでしょ? 二人っきりでさぁ?」
 何か朝の時みたいにまた煽る感じでそう言った瑠璃。
 まだ関係がギクシャクしている感じはする。
 いつもみたいに仲良くしてほしいのに。
 真凛はちょっと鼻高々に、
「そうそう! 二人っきりでやるよぉ! 誰の邪魔も入らずにねぇ!」
 何その言い方、まるで瑠璃や昇介が邪魔みたいじゃん。
 ここは、と思って、
「別に瑠璃も昇介も邪魔じゃないじゃん、そういう言い方良くないよ」
 と言うと瑠璃はプフーと笑ってから、
「叱られてやんのー!」
 真凛は不満げに、
「そういうんじゃないし、夢限が正しいだけだし」
 やっぱりちょっとやり合ってる感じがするんだよなぁ。
 何か嫌な感じがする。女子ってこういうもんなのかな、ちょっとだけこういうもんのイメージがあるから、ちょっとずつトラウマが想起しそうになってきている。
 トラウマが滲んできている。何だよ、トラウマが滲むって。最悪だな。
 結局、昼休みはどこかヒヤヒヤする言い合いばかりで、何かあんまり楽しくなかった。
 一応おもしろツッコミをして、コミカルにする努力はしたけども、正直疲れた。
 授業の時間が癒しだった。
 放課後になると、すぐさま昇介がやって来て、
「今日はマジでずっとワリィ! 山本たちが何か真剣にドッヂバトルすることになっておれも参加させられてんだ!」
「分かってるよ、そんな感じのこと言っていたもんな」
「夢限、ゲーム作り頑張れよな!」
「昇介もドッヂ頑張れっ」
「おう!」
 昇介は疾風のようにいなくなり、多分練習へ仲間たちと行ったんだと思う。
 さぁ、俺は真凛と一緒に、と思っていると、瑠璃が先に駆け寄ってきて、
「今日は思い切ってあたしもついていこうかなぁ?」
 と言ったので、それもたまにはアリなのかなと思っていると、真凛が後ろから叫んだ。
「ダメ! ダメって話じゃん!」
「ちぇー、じゃあいいわぁー」
 そう言って瑠璃は離れていった。
 真凛は妙に目くじらを立てていて、ちょっとした冗談とかじゃないのか? と思った。
 まあいいか、そういうノリかもしれないし、
「真凛、今日はどこへ行こうか」
「公園を回ろうと思っているんだ」
「分かった」
 俺と真凛は歩いて、近くの公園へ歩いて行った。
 公園の許可は町にすればいいので、今回は実地調査って感じで、公園で何が起きるか決めるだけだ。
 まず最初に来たのは商店街内にある、本当に小さな公園。
 小さい三角のスペースにバネで前後に動くパンダが二体設置されている程度の公園だ。
 真凛はその公園でこう言った。
「アタシはこういうところにも何かイベントを用意したいんだよね!」
「古井戸の時、作れなかったもんな」
 と俺が何気なしに言うと、急に真凛の顔は真っ赤になって、
「その時のことはもういいの!」
 と言って俺の背中を強く押してきた。
 自分で言ったことだけども、俺も何か鮮明に思い出してきてしまい、ちょっと額にじんわり汗が出てきた。
 いやそういうつもりで、その時にあったことを想起させるつもりで言ったわけじゃないのに。
 でもまあ、
「ここの公園は小さいからさ、大人が長く滞在というか、うろうろしていると変だからコレクションアイテムが手に入るだけにして、長居はあんまりしないようにしようか」
「確かに! ずっとここで滞在していたら子供が遊べないもんね!」
「一致して良かった」
 とふと呟くように俺が言うと、真凛が笑顔で、
「一緒って嬉しいねっ」
 と言った。
「そうだなぁ」
 となんとなく返事はしたんだけども、何その発言、可愛くないか? と思ってしまって、すぐさま脳内でその気持ちを押し殺した。
 絶対こういう恋愛的なことに繋げたら、顔に出るし、その結果キモイと言われてしまうだろうから、マジで、ホントに良くない。
 そんなことを思っていると、フフッと笑った真凛がこう言った。
「何かさ、まるでデートしてるみたいだね」
「えっ」
 と生返事をしてしまった俺。
 いや、どういう意味と思って固まっていると、すぐさま真凛が、
「違う! 今の忘れて!」
 と言いながら顔を覆って恥ずかしがった。
 いやまあ、
「そりゃ違う、だろう……うん、違うよ、どういうユーモア?」
「ちょっと変なボケしちゃった! 尖ってただけ!」
 尖ってたとは違った笑いだとは思うけども、俺は急に心臓が高鳴ってきて、えっ、真凛が、そんな、そんなユーモアするなんて。
 前に言っていた『大好き』もそうだけども、さすがにそれは勘違いするわ、って思った。
 そう言えば真凛は前まではよく言っていた『大好き』って言わなくなったなぁ。まあ別にいいけども。というか昇介の忠告を聞いたってことなんだろう。
 俺と真凛はまた一緒に移動して、小さめの公園に着いた。
 立て看板などはあるけども、そこまで広いわけではなくて、まあ子供がフットサルをちょっとできるって感じだ。
 真凛は腕を広げながら、
「ここはどうしよう? 変わったイベント用意する? 遊具もそれなりにあるし」
「う~ん、それでも遊具は子供が使うものだから、遊具の傍でアイテムというよりは、どちらかと言うと大人が見るこういう立て看板の近くで何か手に入るほうがいいんじゃないかな?」
 すると真凛はうんうんと頷きながら、
「確かに! 確かに公園って子供のためのスペースだからね!」
「そうそう」
 と意見が通って良かったと思っていると、真凛が急に俺の瞳をじっと見ながら、
「で、さっき言ったこと忘れてくれたっ?」
「さっき言ったことって、えっ、あの尖ったユーモアのこと?」
 実際は尖ったユーモアでもないんだけども、ちゃんと言葉にしたくなくて、そういう言い方をすると、
「まだ覚えてるじゃん! 忘れてって言ったじゃん!」
 不満そうな顔をしたんだけども、その不満そうな顔からはトラウマが想起されず、むしろ何かおかしくて、つい笑ってしまうと、
「笑わないでよ! 逆にそんな面白かったぁっ?」
「いやだってこんな短いスパンで言われたら、逆に記憶に残るよ。記憶って忘れかけた時に思い出すとより定着するんだってさ。とはいえ、短いスパン過ぎだけども」
「そんな! 記憶の知識無いから分かんないよ! 全く!」
 と頬を膨らませた真凛。
 可愛いって、思っちゃいけないことを何度も脳内に巡らせてしまう。だって可愛いもんはもうしょうがないから。
 できるだけ顔に出さないように思うしかないな。
 最後に大きな公園へ移動した。
「ここは特別なイベントを用意したいんだけども、夢限は何か良い案無いっ?」
「じゃあ公園内を歩くことにより、いつもより経験値がもらえるとか。アイテムを隠すのも勿論良いけども、そういう要素があっても面白いかな」
「いいね! アイテム隠すのもいいし! じゃあどこにどんなアイテム隠すか考えよう!」
 俺と真凛は公園内の石碑を読んだり、なかなか出ない噴水にチェックを入れたりしていると、ふと、真凛がこう言った。
「で! そろそろ忘れたぁっ?」
 いや!
「言うことにより思い出すってさっき俺が説明したじゃん!」
「いやまだ覚えてんのかい!」
 そう言って自分の膝を叩いた真凛。
 いやいや!
「これは真凛がおかしいって! そんな確認されたら忘れるもんもマジで忘れられないよ!」
「じゃあ今日中に絶対忘れてね!」
「一応善処はするけどさぁ」
 そんな会話をしながら、バイバイした。
 また明日の土曜日も巡ろうという話になった。
 というかそんな尖ったユーモア、言うなよ。マジで勘違いしちゃうだろ。