・
・【休日の土曜日】
・
早速今日は開店と同時にまちの駅という、観光案内所兼ショップが併設されている場所へ行くことにした。
しっかりチラシの効果はあり、すんなりと話が進んだんだけども、そこで駅長さんがこう言った。
「ここは一階と二階があって、できるだけみんなに利用してほしいんで、何かそんなアイデアのある拡張現実にはできないですか?」
駅長さんは物腰の柔らかい男性で、この人にならと思って、俺はすぐさまその場でアイデアを出すことにした。
「では滞在時間をそこにプラスして、滞在すればするほどより良いアイテムがもらえるようにしましょうか」
「それはいいですね! それでお願いします!」
まちの駅はこれでOKとなった。
真凛さんは俺の背中を優しく叩いて、
「夢限くんってすごいね! すぐにアイデアが浮かんで!」
「たまたまだよ、何か駅長さんも優しそうだったし」
「駅長さんが優しそうは関係無いでしょ!」
「でも何を言っても大丈夫かなって安心感があって」
「あっ! それは分かる!」
と言って俺を指差した真凛さん。
本当リアクションがいちいち大きくて、何か、なんというか、可愛いって、言うのは何かキモイな、こういう方向性は止めたほうがいい。
せっかくちゃんとできた高校の友達なのに、そういう方向に持っていくのはむしろもったいないと思う。
俺は真凛さんの友達として、今後しっかり接していかなければ。
次は八百屋さんへ行くことに。昨日は断られたけども果たして。
「おっ! 今ならいいよ! 何でも話してくれ!」
そう威勢良く答えてくれた店主さんに真凛さんが改めて説明すると、
「ただ寄るだけじゃつまんねぇなぁ!」
すると真凛さんがまちの駅でのエピソードを喋ると、
「長く滞在してほしいわけでもねぇなぁ!」
と言って快活に店主さんは笑ったんだけども、ちょっと難しいかもしれない。
俺は俺で、店主さんの激しい勢いに押されてしまい、喋れないでいると、真凛さんが、
「作戦会議します! 一旦おいとまぁ~」
と情けない声で俺を連れて、八百屋さんからちょっと離れた。
その力の抜けた声に俺は笑ってしまったところで、俺の脳内もやっと動き出した。
「真凛さん、売られている野菜の写真を撮ることにより、あとからでも最低一度は野菜の写真を見ることになって、野菜を思い出す時間ができると思うので、写真を撮るという動作をするとアイテムがもらえるってどうですか?」
「何それおかしいっ」
と言って笑ってしまって、これはダメかなと内心ショボくれていると、
「いやダメなアイデアというわけじゃなくてアタシには絶対無い発想だから面白いって意味ね! これでいこう!」
と何かちょっと気を遣わせてしまったと思って、それはそれで落ち込んでいたんだけども、店主さんがこれを大変気に入って、OKとなった。
真凛さんと二人きりになったところで、真凛さんが、
「本当にすごい! そういう、いろんなアイデアを考えられるところ大好き!」
と二人きりの時にも好きと言われて、何だか心臓が高鳴ってきた俺。
今まで真凛さんは俺に対して”好き”という表現を使うことはあったけども、こう何か、二人きりの時はまた違うというか、心の持ちようが違うというか。
いやいやそういう意味じゃない、全然そういう意味じゃないと思いながらも、真凛さんと顔を合わせることが恥ずかしく思ってしまい、別の方向を見ると、なんとそこに別の友達と歩いていた加賀美昇介がいて、しかも目が合ってしまい、何か、ちょっと、マジで、恥ずかしい……とりま加賀美昇介には会釈し合ったけども、何かマジで、今の気まずかった……。
加賀美昇介からは話し掛けられず(向こうも別の友達といたし)そのまま通り過ぎていったんだけども、何か、本当、今の、めちゃくちゃ恥ずかしかった。
次は床屋や美容室を回るという話で、俺と真凛さんは事前に会話した結果、床屋や美容室は多いので、床屋や美容室を行き来するボスを入れることに。お洒落ボス。
ランダムに出現する、お洒落ボス三姉妹にすることに。四回行くと、必ず一体と遭遇するような確率にするイメージ。
まあそこまで詳しくは伝えないけども、ボスを出現させるという許可をもらうことに。
それはどこの床屋も美容室もすんなりOKしてくれた。
多分床屋も美容室も、客商売特化型といった感じで、こっちの意見を簡単に受け入れてくれるみたいだ。
まわっていると、そろそろご飯ということで、お願いがてら食事にすることにした。
狙いはカレー屋さん。インド人の方々が経営しているらしい。
「……ということなんですけども、よろしいでしょうか?」
といつも通り真凛さんが説明すると、小首を傾げているカレー屋さんの店員。
何か伝わっているのか伝わっていないのか分からない。
分かりやすい言葉で拡張現実ってどう言えばいいんだろうか。
でもまあこういう人になら、日本語が分かってるのか分かってないのか分からないような、意思疎通できてるかどうか不明の人には俺の気になりというか、不安センサーが反応しない。
良くない言い方をすると強く出れるというか。だからなんとか会話して糸口を見つけたい。
そうだ、ならやってみせることがいいのかもしれない。
俺は元々入っているスマホの拡張現実アプリを見せることにした。
見せようとすると、何か急にグロ画像見せられそうになった人みたいなリアクションされたけども、まあここは気にせず。
「こういったモノを作っているのですが、このカレー屋さんの店の前に来たら武器が、ウェポンが手に入るって、どうでしょうか?」
すると店員さんは急に青ざめて、
「ダメ! ダメ! ダメ!」
と叫んで、こうもハッキリダメならダメだろうなと思った。
真凛さんも頭を下げて、
「検討して頂き、誠に有難うございました。ではカレーを注文します!」
ということで、俺も真凛さんもカレーを選んで、待っているんだけども、何だか店員さんがチラチラ見てくる。
何か段々こういうリアクションがキツくなってきて、早く食べて帰ろうと思った。
カレー自体はすごく美味しくて、もっと食べていたかったけども、やっぱりすごく見てきて、後半はもう猫まっしぐらといった感じにじーっと見てきて、真凛さんでも、
「視線が熱烈カレー味だねっ」
と照れながら言っていた。
一応、
「味付きの視線ってなんだ、カライというかツライよ」
とツッコんでおいた。
会計票を持って、レジに立ったところで、店員さんがお金の計算をしながら、こう言った。
「ゲーム完成、楽しみですっ」
……えっ? いやでも、と思って俺は反射的に、
「参加しませんよねっ?」
と言ってしまうと店員さんはビックリしながら、
「参加します! します!」
と激しく頷きながらそう言った。
えっ、いや確かにさっきダメって……と思っていると、真凛さんも同じようなことを考えているみたいで、真凛さんは目を皿にして驚いていた。
店員さんは俺と真凛さんのリアクションで、頭上に疑問符を浮かべているといった感じ。
どういうことだ? ……もしかすると武器が宗教上の理由でNGとかそういうことか?
ならば、
「薬草、回復するハーブならOK?」
と聞いてみると、店員さんはサムズアップしながら、
「勿論ね! 町おこし参加!」
と答えて、そういうことだったのか、と思った。
ならばこの店は回復アイテムにしようと思った。
真凛さんはほほうといった感じにアゴに手を当てて、満足そうに頷いていた。
店から出ていの一番に真凛さんが、
「何か武器がダメだったんだね!」
「そうだな、でも解決して良かった」
「さすが夢限くん! 大好き!」
……また言われた。
勝手に脳内でリフレインする『大好き』という言葉。
いや全然意味無いんだよ、友達としてそう言ってるだけで、褒め言葉の一つとして言ってるんだって顔を見れば分かるよ、でも何か、でも何か、二人きりだと余計に響くものがあって。でも違うんだ、真凛さんは俺の友達だから。そういった感情を持ってはいけないんだ。というか本当勘違いしているんだ。仲良くなった他人が真凛さんが最初だから間違って恋愛感情を抱いてしまっているだけだから、本当は全然違うのに、と思ったところで、真凛さんの大きな声が聞こえた。
「ちょっと! 無視しないでよ! 急に!」
不機嫌そうな表情でこっちを見ている真凛さんに『うっ』となってしまった。
しまった、考え事していて、真凛さんの言葉に反応できなかった。
とにかく言い訳というか、言わないと、
「ちょっと考え事していました。すみません……」
「いやそんな正式な謝罪はいらないけども!」
でもあんな顔を見てしまうと、やっぱりトラウマが走り出してしまうもので。
なんとか抑えつつ、というかまあ結局真凛さんが普通の面持ちに戻ったので、大丈夫になった。
次は、と思ってなんとなくお肉屋さんの前を通ったところで、戸が開いていたこともあり、中から店主さんに話し掛けられた。
「おい! カップル! 話が違うぞ!」
何が話が違うんだろうと思いながら、俺と真凛さんは顔を見合わせてから、中へ入っていくと、
「カップル! エッチ過ぎるぞ! 相手によって色々変えるなんて、そういうエッチはまだ早い! 愚鈍に舐め合えばいいんだよ!」
この前も言われたような下ネタだったんだけども、俺はさっきまで真凛さんに『大好き』と言われたことを思い出してしまい、何だか恥ずかしそうな気持ちになってしまうと、店主さんが高笑いをしてから、
「ほらほらほらぁ! 彼氏のほうは思い出してスケベそうな顔してるよぉぉおっ!」
真凛さんはバッと俺の表情を確認してきて、なおさら顔が真っ赤になりそうだった。
俺は、
「そんなことない……」
と先細りながら否定したところで、真凛さんが、
「そもそも話が違うってなんですか!」
と店主さんへ、やや声を荒らげながら言うと、店主さんは、
「オマエらさぁ、八百屋に面白いアイデア出したらしいな、ドピュッてな、それ何でうちには無いんだ?」
八百屋さんへのアイデア、野菜の写真を撮るってヤツか。
店主さんは続ける。
「そういう贔屓みたいなの、同じ商店街でやられると困るんだよ、萎えるというかさ、本当酷いよね、君たちは。二人で舐め合ってばかりでさ」
真凛さんは首を横に振ってから、
「写真を撮るというアイデアはあとから出たんです!」
「そうそうハメ撮りハメ撮りってかぁ!」
「じゃあこのお肉屋さんでも写真を撮るアイデア採用しますね!」
「おうおう! 外観ハメ撮りしてくれよぉっ!」
さっきから下ネタが酷い……でも真凛さんは嫌な顔はせず、受け流して、会話も終了した。
退店するなり、真凛さんがホッと胸をなで下ろすような表情をしていて、俺は溜息交じりで独り言のように呟いた。
「何でカップルと勘違いしてんだぁ……」
すると真凛さんがそれに反応して、俺の肩を優しく叩きながら、
「向こうがそう思っちゃったらもうしょうがないじゃん! 私は私、夢限くんは夢限くんでしょ! 好きに生きればいい!」
単純に明るいなぁ、と思ったんだけども、何か今のでどっと疲れてしまって、
「真凛さん、正直、俺もう疲れたよ……今日はこの辺で終わりにしない?」
すると真凛さんはう~んと唸ってから、
「確かに、アタシも結構今のはパンチ利いたかも。じゃあさ、本当は明日の日曜日も一緒に回ろうと思っていたけども、オフってことにしようか!」
「そうしてくれると助かる……」
「じゃあまた月曜日ね! 高校でよろしく!」
そう言って俺と真凛さんはバイバイした。
それにしても怒涛の一週間だったと帰路に着きながら反芻する。
まさか俺みたいなもんが陽キャの権化みたいなのと一緒にゲーム作りをするなんて。
しかも友達みたいな感じで喋ってくる連中も出現して、正直脳内がパンクしそうだ。
でもなんとか保ってる、保ってられているといった感じだ。
さらに真凛さんが何気なしに言うあの『大好き』という言葉……本当に好きだったらどうしよう、何か興奮してきたな……心臓が高鳴ってくる……真凛さんが俺のことを異性として好きだったらどうしよう、俺は一体どうすればいいんだろうか……なんて、ありえないだろ、一瞬テンションが上がってしまったことさえ今はもう憂鬱だ。うぬぼれるな。俺にそんな要素無いだろ。ちょっと友達できたくらいでこんなんになってしまう自分が情けない。あーぁ、結局嫌な気持ちになって終わるのか、俺というヤツは。もううんざりだ。慣れていない感じが。こんなにも慣れていないか、俺というものは。何もしてこなかったんだな、と改めて思う。やっとスタート地点に着いたということなのだろうか、全然まだまだだな、人として、俺は。カッコ悪くて、ダサい。
・【休日の土曜日】
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早速今日は開店と同時にまちの駅という、観光案内所兼ショップが併設されている場所へ行くことにした。
しっかりチラシの効果はあり、すんなりと話が進んだんだけども、そこで駅長さんがこう言った。
「ここは一階と二階があって、できるだけみんなに利用してほしいんで、何かそんなアイデアのある拡張現実にはできないですか?」
駅長さんは物腰の柔らかい男性で、この人にならと思って、俺はすぐさまその場でアイデアを出すことにした。
「では滞在時間をそこにプラスして、滞在すればするほどより良いアイテムがもらえるようにしましょうか」
「それはいいですね! それでお願いします!」
まちの駅はこれでOKとなった。
真凛さんは俺の背中を優しく叩いて、
「夢限くんってすごいね! すぐにアイデアが浮かんで!」
「たまたまだよ、何か駅長さんも優しそうだったし」
「駅長さんが優しそうは関係無いでしょ!」
「でも何を言っても大丈夫かなって安心感があって」
「あっ! それは分かる!」
と言って俺を指差した真凛さん。
本当リアクションがいちいち大きくて、何か、なんというか、可愛いって、言うのは何かキモイな、こういう方向性は止めたほうがいい。
せっかくちゃんとできた高校の友達なのに、そういう方向に持っていくのはむしろもったいないと思う。
俺は真凛さんの友達として、今後しっかり接していかなければ。
次は八百屋さんへ行くことに。昨日は断られたけども果たして。
「おっ! 今ならいいよ! 何でも話してくれ!」
そう威勢良く答えてくれた店主さんに真凛さんが改めて説明すると、
「ただ寄るだけじゃつまんねぇなぁ!」
すると真凛さんがまちの駅でのエピソードを喋ると、
「長く滞在してほしいわけでもねぇなぁ!」
と言って快活に店主さんは笑ったんだけども、ちょっと難しいかもしれない。
俺は俺で、店主さんの激しい勢いに押されてしまい、喋れないでいると、真凛さんが、
「作戦会議します! 一旦おいとまぁ~」
と情けない声で俺を連れて、八百屋さんからちょっと離れた。
その力の抜けた声に俺は笑ってしまったところで、俺の脳内もやっと動き出した。
「真凛さん、売られている野菜の写真を撮ることにより、あとからでも最低一度は野菜の写真を見ることになって、野菜を思い出す時間ができると思うので、写真を撮るという動作をするとアイテムがもらえるってどうですか?」
「何それおかしいっ」
と言って笑ってしまって、これはダメかなと内心ショボくれていると、
「いやダメなアイデアというわけじゃなくてアタシには絶対無い発想だから面白いって意味ね! これでいこう!」
と何かちょっと気を遣わせてしまったと思って、それはそれで落ち込んでいたんだけども、店主さんがこれを大変気に入って、OKとなった。
真凛さんと二人きりになったところで、真凛さんが、
「本当にすごい! そういう、いろんなアイデアを考えられるところ大好き!」
と二人きりの時にも好きと言われて、何だか心臓が高鳴ってきた俺。
今まで真凛さんは俺に対して”好き”という表現を使うことはあったけども、こう何か、二人きりの時はまた違うというか、心の持ちようが違うというか。
いやいやそういう意味じゃない、全然そういう意味じゃないと思いながらも、真凛さんと顔を合わせることが恥ずかしく思ってしまい、別の方向を見ると、なんとそこに別の友達と歩いていた加賀美昇介がいて、しかも目が合ってしまい、何か、ちょっと、マジで、恥ずかしい……とりま加賀美昇介には会釈し合ったけども、何かマジで、今の気まずかった……。
加賀美昇介からは話し掛けられず(向こうも別の友達といたし)そのまま通り過ぎていったんだけども、何か、本当、今の、めちゃくちゃ恥ずかしかった。
次は床屋や美容室を回るという話で、俺と真凛さんは事前に会話した結果、床屋や美容室は多いので、床屋や美容室を行き来するボスを入れることに。お洒落ボス。
ランダムに出現する、お洒落ボス三姉妹にすることに。四回行くと、必ず一体と遭遇するような確率にするイメージ。
まあそこまで詳しくは伝えないけども、ボスを出現させるという許可をもらうことに。
それはどこの床屋も美容室もすんなりOKしてくれた。
多分床屋も美容室も、客商売特化型といった感じで、こっちの意見を簡単に受け入れてくれるみたいだ。
まわっていると、そろそろご飯ということで、お願いがてら食事にすることにした。
狙いはカレー屋さん。インド人の方々が経営しているらしい。
「……ということなんですけども、よろしいでしょうか?」
といつも通り真凛さんが説明すると、小首を傾げているカレー屋さんの店員。
何か伝わっているのか伝わっていないのか分からない。
分かりやすい言葉で拡張現実ってどう言えばいいんだろうか。
でもまあこういう人になら、日本語が分かってるのか分かってないのか分からないような、意思疎通できてるかどうか不明の人には俺の気になりというか、不安センサーが反応しない。
良くない言い方をすると強く出れるというか。だからなんとか会話して糸口を見つけたい。
そうだ、ならやってみせることがいいのかもしれない。
俺は元々入っているスマホの拡張現実アプリを見せることにした。
見せようとすると、何か急にグロ画像見せられそうになった人みたいなリアクションされたけども、まあここは気にせず。
「こういったモノを作っているのですが、このカレー屋さんの店の前に来たら武器が、ウェポンが手に入るって、どうでしょうか?」
すると店員さんは急に青ざめて、
「ダメ! ダメ! ダメ!」
と叫んで、こうもハッキリダメならダメだろうなと思った。
真凛さんも頭を下げて、
「検討して頂き、誠に有難うございました。ではカレーを注文します!」
ということで、俺も真凛さんもカレーを選んで、待っているんだけども、何だか店員さんがチラチラ見てくる。
何か段々こういうリアクションがキツくなってきて、早く食べて帰ろうと思った。
カレー自体はすごく美味しくて、もっと食べていたかったけども、やっぱりすごく見てきて、後半はもう猫まっしぐらといった感じにじーっと見てきて、真凛さんでも、
「視線が熱烈カレー味だねっ」
と照れながら言っていた。
一応、
「味付きの視線ってなんだ、カライというかツライよ」
とツッコんでおいた。
会計票を持って、レジに立ったところで、店員さんがお金の計算をしながら、こう言った。
「ゲーム完成、楽しみですっ」
……えっ? いやでも、と思って俺は反射的に、
「参加しませんよねっ?」
と言ってしまうと店員さんはビックリしながら、
「参加します! します!」
と激しく頷きながらそう言った。
えっ、いや確かにさっきダメって……と思っていると、真凛さんも同じようなことを考えているみたいで、真凛さんは目を皿にして驚いていた。
店員さんは俺と真凛さんのリアクションで、頭上に疑問符を浮かべているといった感じ。
どういうことだ? ……もしかすると武器が宗教上の理由でNGとかそういうことか?
ならば、
「薬草、回復するハーブならOK?」
と聞いてみると、店員さんはサムズアップしながら、
「勿論ね! 町おこし参加!」
と答えて、そういうことだったのか、と思った。
ならばこの店は回復アイテムにしようと思った。
真凛さんはほほうといった感じにアゴに手を当てて、満足そうに頷いていた。
店から出ていの一番に真凛さんが、
「何か武器がダメだったんだね!」
「そうだな、でも解決して良かった」
「さすが夢限くん! 大好き!」
……また言われた。
勝手に脳内でリフレインする『大好き』という言葉。
いや全然意味無いんだよ、友達としてそう言ってるだけで、褒め言葉の一つとして言ってるんだって顔を見れば分かるよ、でも何か、でも何か、二人きりだと余計に響くものがあって。でも違うんだ、真凛さんは俺の友達だから。そういった感情を持ってはいけないんだ。というか本当勘違いしているんだ。仲良くなった他人が真凛さんが最初だから間違って恋愛感情を抱いてしまっているだけだから、本当は全然違うのに、と思ったところで、真凛さんの大きな声が聞こえた。
「ちょっと! 無視しないでよ! 急に!」
不機嫌そうな表情でこっちを見ている真凛さんに『うっ』となってしまった。
しまった、考え事していて、真凛さんの言葉に反応できなかった。
とにかく言い訳というか、言わないと、
「ちょっと考え事していました。すみません……」
「いやそんな正式な謝罪はいらないけども!」
でもあんな顔を見てしまうと、やっぱりトラウマが走り出してしまうもので。
なんとか抑えつつ、というかまあ結局真凛さんが普通の面持ちに戻ったので、大丈夫になった。
次は、と思ってなんとなくお肉屋さんの前を通ったところで、戸が開いていたこともあり、中から店主さんに話し掛けられた。
「おい! カップル! 話が違うぞ!」
何が話が違うんだろうと思いながら、俺と真凛さんは顔を見合わせてから、中へ入っていくと、
「カップル! エッチ過ぎるぞ! 相手によって色々変えるなんて、そういうエッチはまだ早い! 愚鈍に舐め合えばいいんだよ!」
この前も言われたような下ネタだったんだけども、俺はさっきまで真凛さんに『大好き』と言われたことを思い出してしまい、何だか恥ずかしそうな気持ちになってしまうと、店主さんが高笑いをしてから、
「ほらほらほらぁ! 彼氏のほうは思い出してスケベそうな顔してるよぉぉおっ!」
真凛さんはバッと俺の表情を確認してきて、なおさら顔が真っ赤になりそうだった。
俺は、
「そんなことない……」
と先細りながら否定したところで、真凛さんが、
「そもそも話が違うってなんですか!」
と店主さんへ、やや声を荒らげながら言うと、店主さんは、
「オマエらさぁ、八百屋に面白いアイデア出したらしいな、ドピュッてな、それ何でうちには無いんだ?」
八百屋さんへのアイデア、野菜の写真を撮るってヤツか。
店主さんは続ける。
「そういう贔屓みたいなの、同じ商店街でやられると困るんだよ、萎えるというかさ、本当酷いよね、君たちは。二人で舐め合ってばかりでさ」
真凛さんは首を横に振ってから、
「写真を撮るというアイデアはあとから出たんです!」
「そうそうハメ撮りハメ撮りってかぁ!」
「じゃあこのお肉屋さんでも写真を撮るアイデア採用しますね!」
「おうおう! 外観ハメ撮りしてくれよぉっ!」
さっきから下ネタが酷い……でも真凛さんは嫌な顔はせず、受け流して、会話も終了した。
退店するなり、真凛さんがホッと胸をなで下ろすような表情をしていて、俺は溜息交じりで独り言のように呟いた。
「何でカップルと勘違いしてんだぁ……」
すると真凛さんがそれに反応して、俺の肩を優しく叩きながら、
「向こうがそう思っちゃったらもうしょうがないじゃん! 私は私、夢限くんは夢限くんでしょ! 好きに生きればいい!」
単純に明るいなぁ、と思ったんだけども、何か今のでどっと疲れてしまって、
「真凛さん、正直、俺もう疲れたよ……今日はこの辺で終わりにしない?」
すると真凛さんはう~んと唸ってから、
「確かに、アタシも結構今のはパンチ利いたかも。じゃあさ、本当は明日の日曜日も一緒に回ろうと思っていたけども、オフってことにしようか!」
「そうしてくれると助かる……」
「じゃあまた月曜日ね! 高校でよろしく!」
そう言って俺と真凛さんはバイバイした。
それにしても怒涛の一週間だったと帰路に着きながら反芻する。
まさか俺みたいなもんが陽キャの権化みたいなのと一緒にゲーム作りをするなんて。
しかも友達みたいな感じで喋ってくる連中も出現して、正直脳内がパンクしそうだ。
でもなんとか保ってる、保ってられているといった感じだ。
さらに真凛さんが何気なしに言うあの『大好き』という言葉……本当に好きだったらどうしよう、何か興奮してきたな……心臓が高鳴ってくる……真凛さんが俺のことを異性として好きだったらどうしよう、俺は一体どうすればいいんだろうか……なんて、ありえないだろ、一瞬テンションが上がってしまったことさえ今はもう憂鬱だ。うぬぼれるな。俺にそんな要素無いだろ。ちょっと友達できたくらいでこんなんになってしまう自分が情けない。あーぁ、結局嫌な気持ちになって終わるのか、俺というヤツは。もううんざりだ。慣れていない感じが。こんなにも慣れていないか、俺というものは。何もしてこなかったんだな、と改めて思う。やっとスタート地点に着いたということなのだろうか、全然まだまだだな、人として、俺は。カッコ悪くて、ダサい。