「一応、話を聞いてあげるよ。何で死にたいの?」
 彼女は呆れながらも、僕に寄り添おうとしてくる。優しい子なのだろう。今の僕にとって、その優しさは喜ばしいものではなかったが、それを無下にするのは何か違うと思った。
「天涯孤独ってやつでさ。物心付いた頃から施設で育ってね。今年から自立支援ってことで施設を出て一人暮らしすることになったんだけど、一人になったら猛烈な孤独感に襲われてさ。何だろう? 誰もいない世界に放り出された気持ちになった。街に出て、どれだけ多くの人とすれ違って、無機質な会話を交わしても、そこに誰もいないような錯覚を起こすんだ。だから何だろう? 俺がいてもいなくても世界って変わらないんだろうなって何か悟った」
 こんなに熱を込めて自分の内側を人に晒したことはなかった。彼女はペンを置いて、僕の話に聞き入っていた。お互い目的は違えど月を見るという共通の行為をしていたが、今はお互いの顔を見るという共通の行為をしている。綺麗な顔をしているな、と思った。どうせなら最後に綺麗なものを見てから死のうと考えていた僕にとって、彼女の存在はありがたかった。綺麗なものが一つ増えたな、と思い、自分でも驚くほど冷静に彼女の顔を凝視していた。