「そこ、恥らいを持って否定するとこでしょ? 何を百パーセントの肯定をしてるの?」
 彼女は僕の反応に笑いながら言った。
「別に。嘘ついても仕方ないから。俺もう死ぬからさ」
 僕の口から死というフレーズが飛び出した瞬間、彼女から笑顔が消えた。少し怒りの表情にも見える。でもそんなことどうでもいい。好かれようが嫌われようが僕はどうせ死ぬ。何なら嫌われた方が気持ちが楽だ。
 お互い後味が悪くならないで済むし、嫌いな奴が勝手に死んだところで悲しむ奴なんてそうはいないだろう。
「贅沢な奴だね」
 彼女は表情に怒りは見えるものの、口調は冷静だった。呆れ果てているから、声を荒げる価値もないと思われたのかも知れない。僕が何も反応せずにただ月を見ていると、彼女は言葉を続けた。
「生きたくても生きられない人が沢山いる中、自ら命を捨てようとするなんて無責任だと思わないの?」
「責任か。考えたこともなかったな」
 彼女の言葉は、むしろ言い尽くされてきたぐらい定番のセリフだと思う。でも、自分は根本的に他人に興味がない。自分自身をないがしろにするぐらい自己肯定感も低く、他人の想いにまで思慮する発想がそもそもなかった。