声がした方向に顔を向けると、あの場所に笑顔の夏希が座っていた。一瞬、宙に浮いているように見えたのも、あの時と同じだ。夏希がいる。そんな馬鹿な。そんなことあるはずがない。
 僕が何も言えないでいると、夏希はあの日と同じ口調で僕を誘う。
「こっちだってば」
 僕は、三十年も待たした夏希に文句の一つでも言ってやろうと思い、梯子を上って夏希の元へと向かった。
 あの場所に着くと、目の前に夏希がいる。あの日のままの姿の夏希がいる。信じられない。奇跡が起きた。僕は、微笑む夏希に思わず抱き付いて泣いてしまった。三十年振りに夏希の胸で泣いている。三十年前と同じように、夏希は優しく僕の頭を撫でてくれた。
「ごめんね夏樹、ずっと待たしちゃって。でも私、約束守ったでしょ? 生まれ変わって会いに行くって」
 あまりにも非現実的なことに直面して、思考が追い付かない。でもそんなことはどうだっていい。今、目の前に夏希がいる。その現実だけで僕は充分だ。