いつか夏希に会えるかも?
 という微かな光を胸に生きる自分は、客観的に見ても格好悪くはなかった。ただ、もうありもしない幻想を待ち続けるには、僕は年を取り過ぎてしまった。年を重ねる毎に、現実という刃が襲ってきた。そんなことあるわけがないという念が、誰からともなく聞こえてくるようになった。久しぶりに夏希の手紙を読み返すと、涙がとめどなく溢れてきた。
「夏希の嘘付き」
 僕は三十年振りにロープを持って、あの場所を訪れることにした。久しぶりにあの場所の最寄駅に着くと、田舎特有の柔らかな自然の匂いはあの時のままで、自分がタイムスリップしたのではないかと錯覚する。駅からの風景もほとんど変わっていない。相変わらず、のどかな田舎の風景だ。ただ、原因は分からないが、抜け道になっていた場所が封鎖されてしまっている。その辺りに僕は、時間の経過を感じていた。
 初めてあの場所を訪れた時と同じ道を進む。そちらの道は健在で、所々、道なき道な所も相変わらずであった。足場の悪さがあの日のことをリアルに思い起こさせる。川辺に着いてすぐに僕はその場に座り込んだ。