世界がどんなに残酷で色褪せたものに見えていたとしても、その世界に僕がいなければ、夏希は僕を見つけることができない。だから僕は生き続ける。夏希が僕を見失わないように。色褪せた世界のその先に、希望の光が待っていることを信じて、僕は生き続ける。きっと、夏希と出逢う以前よりも辛い毎日が待っていると思う。ただ、それでも僕は前に進む。このままここで停滞していたら、二度と夏希に会えない気がしていた。いつかまた、もう一度あの日と同じ未来を迎えられるように、僕はただひたすら生きて夏希を待ち続ける。ふと僕の絵に目をやると、笑顔の中に強い決意が表れているように見えた。
 
 それから僕は、夏希がいない人生を三十年生きてきた。夏希の言い付けを守り、僕は夏希以外の女性を見ることをしなかった。そもそも言われなくても夏希以外の女性を見る気はなかったし、見れる気もしなかった。三十年間、浮気一つしなかった僕のことを夏希は褒めてくれるだろうか?
 この三十年は気の遠くなるほど長い時間だった。夏希のことを五年待って、十年待って、二十年待って。あと十年待てば夏希が現れるんじゃないかって淡い期待を持ち続け、三十年が経過してしまった。夏希の幻影を待ち続ける人生だったが、それはそれで悪くなかった。