その日は歩いて帰宅した。三時間以上掛かったが、あの場所に朝までいるのは今の僕にはできそうもなかった。家に着くと僕は再び二枚の絵を眺めていた。ぼんやりと眺めていると涙で視界が滲んで、絵にも関わらず月がキラキラと輝いて見えた。涙が止まらない。止めようとすればするほど流れてくる。だからと言って、泣いても心が落ち着くことも浄化することもない。
 僕はただひたすら泣いて過ごした。ひとしきり泣き尽くした後、僕はある物の存在を思い出した。二枚の絵と一緒に夏希のお母さんに渡された手紙。
 正直、見るのが恐い。だけど、そこに夏希を感じられるなら、そこに夏希の意思があるなら、僕はそれを見なければならない。僕は鞄から手紙を取り出す。よく見ると表面に書かれたDear 夏樹の文字は小刻みに波を打っていた。文字を書くのも辛い状態で書いてくれたのだろうと思うと、僕は再び涙が溢れてきた。夏希の為にも向き合わなければならない。僕は覚悟をして手紙の封を切った。