夏希が僕を待っている。その一心で僕は再びあの場所を目指した。あの日、出逢うことができたのだから今日だって出逢えるはずだ。僕は何かに取り憑かれたように、夏希の幻影を追い求めた。しかし、心のどこかに冷静な自分がいる。
 夏希がいるわけがない。そんな正しい邪念を振り払いながら僕は夏希を目指した。二日振りにあの場所の最寄駅に着いた。初めて来た時と同じように、田舎特有の自然の匂いが僕の鼻腔を優しく刺激する。まるで僕の再訪を歓迎するかのように。僕は抜け道を使わずに、初めてあの場所を訪れた時の道を使った。遠回りになるだけなのだが、何故だかそうした方が夏希に会えそうな気がしていた。
 所々、道なき道の部分が昨日の雨の影響で荒れてしまっている。そんなことお構いなしに僕は歩を進める。やがて、あの日と同じように川辺に到着する。あの日見た月とソックリな月が今日も神々しく輝いている。あの時と何もかも同じだ。僕は観光案内雑誌ではなく、あの日と百パーセントの一致を求めて先へ先へと歩を進めていた。