僕が泣き続けていると、お母さんと思しき女性が声を掛けてきた。
「夏希の母です。夏希ね、余命宣告をされて少しした頃にね、好きな人ができたって言うの。それも自分と同じ名前の男の子だって嬉しそうに言っててね」
 夏希が僕そのものを直接好きと言ってくれたことはなかったけれど、夏希も同じタイミングで僕と同じ気持ちでいてくれた。僕が何も答えられずにいると、お母さんは言葉を続けた。
「あの子ね、一旦は自分の死を受け入れてた。だけど、最近は毎日死にたくないって言って泣いてた。せっかく好きな人ができたから生きたいって」
 僕の前では常に気丈に振る舞っていた夏希が、家では毎日泣いていたという話を聞いて、ますます涙が溢れてきた。
「これを君に渡してって言われた。中身は見てないから分からないけど、多分君への気持ちを書いてるんだと思う」
 そう言ってお母さんは手紙を渡してきた。
 表面にはDear夏樹って書かれていた。僕はそれを受け取り、二枚の絵と一緒に鞄に詰め込んだ。手紙と絵を受け取ると、夏希との永遠の別れをより鮮明に実感してしまって、僕は息ができないほどの絶望に襲われた。