これを受け取ってしまうと、夏希との永遠の別れになってしまう気がして、僕は躊躇していた。
「泣かなくて大丈夫! 私は生まれ変わる。生まれ変わってもう一度君に会いに来る」
 泣いている僕を見て、夏希があの日と同じ言葉を言ってくれた。消え入りそうなぐらいか細い声だったが、僕の鼓膜にハッキリとこびり付くぐらい聞こえた。
「夏樹、ありがとう」
 夏希が精一杯、僕に感謝の言葉を伝えてくる。
「俺の方こそありがとう」
 僕もまた、今までの想いを全部凝縮して返事をした。僕の言葉を聞くと、満足したような笑顔で夏希は目を閉じた。月の下で出逢った僕達は、月の下でお別れすることもなく、簡素な蛍光灯の下でお別れをした。
 僕は夏希の両親がいるにも関わらず、大声で泣き喚きながら夏希の顔を抱き締めた。泣いている僕をいつも優しく包んでくれていた夏希だったが、その時の夏希はただ目を閉じてジッとしていた。僕はジッとしている夏希にしがみつきながら泣き続けたが、夏希が目を開けてくれることはなかった。