色を塗り始めてから五日が経過した。デッサンに比べて色塗りが好調だったこともあり、夏希曰く完成間近とのことだった。決して急いで完成させようとした意図はなかったらしく、本当に調子が良かったようだ。この短い期間で二枚の絵を描いた夏希は、本当に凄いと思う。それも体調が悪い中でだ。
 僕の絵は夏希の横にいる構図なので、月がバックにはない。ただ夏希曰く、被写体に主役は二人いらないとのことで、これが正解らしい。絵の中の自分は屈託のない笑顔をしている。夏希といる時の笑顔を実際に自分で見たことがなかったので、その笑顔の眩しさに自分のことながら驚いた。僕にこんな顔ができるんだな、と心の底から思った。
「何か、被写体の自分が言うのもなんだけど、良い絵だな」
 僕は思ったことを素直にそのまま口にする。
「被写体と私の腕が良かったんだよ」
 夏希はそんな僕の言葉に対して二人セットで褒めてくれた。この一括りが堪らなく嬉しい。今夜には完成するとのことだったので、僕はそれを楽しみに家路に着いた。しかし、その日の夜、夏希はあの場所にいなかった。