「明日から色塗りだあ。夏樹ありがとう」
 色々な想いがこもったありがとうだと思う。
「どういたしまして」
 そんな夏希の言葉に僕は笑顔で応えた。
「でも夏希、本当に無理しないでね」
 僕は心の底から夏希を心配していた。
「夏樹は心配性だなあ。私なら大丈夫! ほらこうしてピンピンしてるから」
 笑顔の夏希がどこか痛々しく見える。
 夏希の大丈夫って言葉に前のような力を感じない。でも、僕はそんな夏希に笑顔で返す。
「夏希なら大丈夫だよね」
 それは自分にも言い聞かせていたのだと思う。夏希の体調が落ち込むにつれて、月の光の輝きが色褪せて見えるようになった気がする。
 僕は以前に比べ、月を見上げる回数が減った。夏希の身を案じてということもあるが、月よりも夏希のことを見ている時間の方が格段に増していた。以前は自然の力に人間が敵うわけがないと思っていたが、今の僕にとって、月は夏希には敵わない。以前と変わらぬ壮大で幻想的な月の光の美しさは、人間の命の光には敵わない。僕は無意識の内に、月と夏希の美しさを対比していた。