「夏樹ってさ、怒るにしてもお礼を言うにしても本当に素直に伝えるよね? そういう人って今まで会ったことなかったからさ、出逢えて良かったって思うよ」
 夏希の方こそいつだって素直に思ったことを伝えてくれる。そんな夏希が愛おしく思う。出逢えて良かったのは僕の方だ。僕は夏希がいなければ既にこの世にいなかった。絶望の中を生きてきて、人の温もりを知らないまま、綺麗な月だけを見て満足して、死んでいただろう。それでいいと思っていた。そこに疑問さえ抱かなかった。でも夏希と出逢って、一緒に時間を共有している内に生きる喜びを知った。今、生きていて良かったって心の底から思っている。夏希を知らないまま死んでいた自分の人生を想像するとゾッとする。
 僕の中で何かが弾けたのか、自分でも無意識の内に夏希を抱き締めていた。
「夏樹、どうしたの?」
 夏希は驚いてはいたものの抵抗する様子はない。僕のこの不意の行動を受け止めてくれている。
「ごめん、自分でも分からない」
 僕は素直に自分の気持ちを伝えた。