「夏樹ってさ、表情豊かで喜怒哀楽が激しいから、どの表情を描くか迷うんだよね」
 夏希が僕の絵の骨組みを始める。自分が表情豊かって言われて驚いた。どちらかと言えば、無表情で感情を面に出さない子って扱いをされていたから。僕の表情が豊かになったのは、間違いなく夏希のおかげだ。夏希といる時だけ僕は人間らしくいられる。以前は自分のことなんて大嫌いだったけれど、今の自分のことは嫌いではない。僕は自分自身の価値を、夏希を通して見い出すようになっていた。夏希の目に映る僕が本当の僕でありますように、と心の中で願った。
 僕があれこれ自分の内面と葛藤していると、夏希がからかいながら絵の提案をしてくる。
「私の胸で泣きじゃくってた夏樹を描いてもいい?」      
 悪意に満ちた笑顔をしている。
「それが夏希の最高傑作になるんなら喜んで承諾してやるよ」
 僕はその言葉に軽く突き放すような返事をした。
「ごめんって夏樹。冗談だって。あの時の夏樹可愛かったからさ」
 可愛いって言われて照れている自分がいる。きっとこれも、夏希のおかげで感受性が豊かになった結果だろう。