僕は内心ホッとしていた。夏希の願いが一つ叶った。間に合ったと思ったのが正直な所だ。
「夏希、本当にお疲れ様。素晴らしい絵だよ」
「良かった。ありがとう」
この良かったという言葉には僕と同じ思いがあったのかも知れない。
「さあて、今から君を描き始めるかな」
 夏希は息つく間もなくそう告げる。
「流石に少し休んだら? 夏希、頑張り過ぎだよ」
 僕は純粋に夏希の体調が心配になった。ただでさえ痩せ型の夏希がここの所、出逢った当初よりも痩せ細ったように見える。
「ありがとう夏樹。でも私には時間がないからさ」
 夏希は気丈に言っていたが、時間がないという言葉を聞いた僕は一気に現実に引き戻された気がした。夏希はずっと現実と向き合いながら今を生きている。僕だけ、どこか夢心地で、この時間が永遠に続くのではないか、と心のどこかで思っていた。
 僕の絵が完成する頃には夏希はもう……
 僕は悪いイメージを払拭するべく、視線を月に移していた。