それ以降も僕と夏希は毎夜、あの月の下で会っていた。二日ほど、雨が強く川も増水して行けない日もあったが、それ以外の日は毎日会って同じ時間を共有していた。僕が夏希と会って十三日目だったと思う。
「できたあ!」
 月に見惚れていると、夏希の大きな声が横から響いた。完成間近かな、と思ってから二日間ほど費やしていたが、予想よりも少しだけ絵は早く完成した。
 夏希の絵を細部まで隈なく眺めると、色彩豊かで柔らかな自然の風景に雄大で迫力のある月が非常に立体的に描かれていて、夏希の繊細さと力強さが同居した素晴らしい出来栄えだった。絵の中で輝く月は実物の月にも遜色ない神々しさで、辺りを幻想的に照らしていて、こちらに迫ってくるような錯覚さえ感じさせる。まるで、絵の中から飛び出してきて、僕達二人を飲み込んでしまうんじゃないかと思わせる迫力だ。僕は夏希の絵に圧倒されると同時に感激した。初めて観光案内雑誌のあの月を見た時以上の衝撃かも知れない。こんな絵を完成させた夏希を心の底から尊敬し、それと同時に心の底から労いたくなった。