「はあ? 何してんの?」
 夏希が少し怒った顔で言う。でも表情や口調ほど怒りの感情は感じられなかったので、僕は気にせず言葉を続けた。
「いや、何か夏希が拗ねてたからさ」
 僕が微笑みながら言うと、夏希は不敵な笑みを浮かべながら言い返してくる。
「昨日、私の胸でわんわん泣いてた夏樹君が偉くなったもんだねえ?」
 夏希の言葉に昨日の情景が浮かび上がる。途端に恥ずかしくなった僕は、夏希から視線を外して空を見上げる。今日も月が綺麗に輝いている。僕達二人を歓迎するかのように美しい光を放っている。
「また都合が悪くなると月を見て誤魔化すよこの男は」
 夏希が呆れながら言う。夏希と僕の間には『月』がある。夏希と夏樹の中には『つき』がある。
「いや、本当に月が綺麗だからさ」
 誤魔化しでも本心でもある言葉を夏希に投げる。
「確かに綺麗だよね」
 投げた言葉を夏希も受け止めてくれる。
 僕達は二人して月を見上げた後に、お互いの顔を見て微笑み合う。今この瞬間、僕は先程見た映画に勝っていることを再認識していた。