しばらくすると、夏希がふうっ、と言って手を止めた。そのタイミングで夏希に声を掛ける。
「夏希、お疲れ」
 僕が声を掛けると、夏希が少しむくれながら口を開く。
「夏樹遅いよ! 私二十分は前に来てたんだよ」
 二十分前だと二十二時五十分。きちんと十分前行動をしているのが何だか真面目な夏希らしい。
「ごめんごめん。でも十分前には来てたんだよ。夏希が集中してるから手を止めるのを待ってた」
 僕が経緯を説明しても、まだ夏希はむくれている。
「そんなの気にしなくていいのに」
 昨日に比べて夏希が少し子供っぽく感じる。よくよく考えたら、夏希は僕と同じ十八歳。子供っぽくて当たり前だ。昨日の達観した姿と、僕を慰める為に取った言動が大人っぽく感じられただけで、これが本来の夏希なのだろう。昨日の神々しさと大人っぽさを纏った夏希も魅力的だったが、人間味のある今の夏希もそれはそれで可愛くて魅力的だ。
「ヨシヨシ」
 僕は昨日のお返しとばかりに、そんな夏希の頭を撫でてあげた。