「オッケーだよ。じゃあ二十三時にまたあそこでね」
 僕達は手を振って別れた。そういえば事務的なこと以外で、誰かと待ち合わせをしたことってなかったなと思った。僕は重くも軽くもない足取りで自宅への帰路着いた。
 帰宅後、僕はただぼんやりと夏希のことを考えていた。あれは夢だったんじゃないか? 月だけ見て自殺をしようとあの場所を訪れたのに、そこで美少女と出逢って語らうなんてあまりにも現実離れしている。
 ただ、夏希の優しさや温もりが僕の心をそっと包んでくれているような感覚がずっと残っている。僕は時間が過ぎるのを待った。夏希に会いたい。早く会いたい。別れて数時間しか経っていないのに、僕は既に夏希を求めていた。僕は昨日とは別の目的で今日、同じ場所を訪れる。月を求めて、死を求めて僕は昨日、あの場所を訪れた。でも今日の僕は、夏希を求めてあの場所を訪れる。
 昨日までの目的が既に脇役に追いやられて、夏希という主役のヒロインに引き寄せられる。僕は少しでも早く時間が経過することを願いながら眠りに就いた。