夏希に抱かれていると、せっかく拭ってくれた涙が溢れ出してきた。
「夏希、死なないでよ。せっかく知り合えたのに。せっかく生きる意味も理由も見つかったのに」
 女性に甘える経験は初めてだった。情けないぐらい泣きじゃくってしまった。
「大丈夫! 私は生まれ変わる。生まれ変わって君にもう一度会いに来る。だから泣かなくて大丈夫!」
 僕を慰める為に、咄嗟に口から出した言葉だろう。夏希の言葉がどれほど馬鹿げているかはさすがに分かる。でも、そんな夏希の言葉に縋りたくなる。生まれ変わりなんてものがあるならば、僕はそれを希望に生きていける。
「本当にもう一度会いに来てくれるの?」
 あり得ないことだって分かっている。でも口に出して聞きたくなる。
「うん」
 夏希の言葉と笑顔が夜空に弾ける。この月夜が輝く空の下なら、どんなに非現実的なことさえ、願えば叶いそうな気がしていた。
「そもそもさ、まだ私生きてるんだよ? 泣くのは私が死んでからにしてよ」
 夏希が少し呆れたように言う。しかし、その顔は実に穏やかで慈愛に満ちていた。