「勿論いいよ。どうせ死ぬつもりだったんだし、何をしたからといって後悔することなんて何もないよ」
 僕がそう言うと、夏希が驚いた顔をしている。僕の言葉は、特に意表を突くものではなかったはずなのにどうしたのだろうか?
「夏樹、何で泣いてるの?」
 えっ? 自分でも気付かない内に涙を流していた。この涙は一体僕のどこから流れてきたのだろう。
「あれっ? 俺、何で?」
 自分でも分からなかった。人のために涙を流した経験がなかったから。泣く程の思い入れのある人がいなかったから。この涙は目の前の夏希から伝染したものだ。本当に一番泣きたいのは夏希のはずだから。
「ヨシヨシ」
 夏希が僕の頭を優しく撫でながら涙を拭ってくれる。涙に月の光が反射して、夏希の顔が輝いて見える。キラキラしていて綺麗だ。こんな綺麗なものが、あと一ヶ月足らずで消えてなくなってしまうということが信じられない。僕は生まれて初めて人の胸で泣いた。無機質な僕の人生に、人の体温が流れ込んできた。