「ちなみにいつまで生きられるの?」
 僕はデリカシーの欠片もない質問をした。きっとその方が彼女も楽なのではないかと思った。
「四日前に余命一ヵ月って言われた」
 彼女は先程までとは違い、冷静に答えてくれた。
「一ヵ月か。その月はあと何日ぐらいで描き終わりそう?」
「えっとデッサンはほとんど終わったから後は色を付けるだけだけど、色には拘りたいから二週間は欲しい」
 二週間。単純計算で残り十二日から十三日の猶予がある。
「夏希さ、俺のこと描きたいって言ったよね? 描きなよ。その月が描き終わったらさ。それまでは生きててやるよ」
 僕はぶっきらぼうに言った。
 何故だか分からないけれど、彼女の力になりたいと思った。僕のことを描きたいなら描けばいい。それで少しでも救われるなら。
 でも、その後僕はどうする? また結局一人になる。むしろ今死ぬよりも、ずっと辛い未来が待っているのではないだろうか?
「夏樹はそれでいいの?」
 お互いがお互いを名前で呼び合う。
 自分の名前と同じなのに彼女に投げ掛けると全く違う音に聞こえるから不思議だ。彼女も同じ感情なのだろうか?