「何で死ぬの?」
 僕は言葉を絞り出した。できる限り冷静に、言葉に怒りの念を込めないようにして。
「病気だよ。末期癌ってやつ。もう何をしても助からない状況だから宣告後の余生ってものを楽しんでるの。だからこんな時間に出歩いても両親は何も言わないんだよ。私の好きなことをさせてあげようってね」
 大方の予想は付いていた。僕に掛けた無責任という言葉は、紛れもなく夏希の本心だったのだろう。そんな夏希が自ら死を選ぶとは思えない。夏希は僕とは違う。きっと自分の運命に必死で抗おうとしたはずだ。それが叶わなかったからこそのあの表情だったのだろう。夏希は何も悪くない。悪くないと分かっていたけれど、僕は無性に腹が立った。勝手に人の覚悟を踏みにじって、勝手に人に生きる希望を与えておいて。自分は死ぬ? 病気で死ぬから私は悪くない。私はあなたとは違うって言われているような気がした。
「ふざけるなよ! 人が死ぬことを否定して、自分が死ぬことを肯定するなんて自分勝手だ。勝手に人に希望を持たせておいて自分は死ぬなんて身勝手にも程がある」
 僕は自分の感情をぶちまけた。形こそ違えど、夏希と同じように自分が思っていることをストレートに言葉に出してぶつけた。