夏希といると、死ぬことさえ馬鹿馬鹿しくなってくる。ストレートに思ったことを口にする彼女に感化されたのか、僕も少し軽口が過ぎたように思う。でも、それが二人にとってちょうどいい距離感を保っている。人との距離感というものを夏希を通して学んだ。 夏希が僕に教えてくれた。
 この人がいるなら僕は死ぬ必要なんかないのではないか、と思えた。でも、そんな僕に夏希はとんでもないことを告げてきた。
「私ね、もうすぐ死ぬんだ」
 この人は一体何を言っているのだろう?
 ようやく、生きる意味を見出せたかと思った。これから自分の人生が始まるんだって気持ちが湧きかけた。そもそも、人に無責任だとか言っておいて、自分はもうすぐ死ぬ?
 今回ばかりは月の魔力も及ばずに怒りが湧いた。
 僕は夏希をキッと睨んだ。
 夏希はそんな僕の視線を全部受け止めた上で微笑んでいる。その笑顔はどこか達観した様子で、何か大きなものに支配されているように見える。抗えない運命に身を任せている。そんな感じだ。