言われて驚いた。自分の名前の中に月があるなんて考えもしなかった。夏希もそんな感じだった。僕達は本当にたまたま月に魅了され、この場所で出逢った。
「月に導かれし二人か……」
 思わず口から出てきた言葉が、妙にキザっぽくて少し恥ずかしくなる。
「へえ、カッコいいこと言うじゃん」
 僕の思いとは裏腹に、夏希は嬉しいことを言ってくれた。
「月に導かれし王子と王女なんてどう?」
 と言いながら夏希がイタズラっぽく笑う。そんな夏希が無性に可愛く思える。
「どこの国の王様の息子と娘なんだよ?」
 と僕が笑いながら返すと、夏希が大口を開けて笑う。ツボに入ったみたいだ。
「ごめん。息できない。さっきまで死ぬって言ってた奴からそんな言葉が飛び出すとは」
 夏希がお腹を抱えて笑っている。
 夏希の言った通りだ。王子はおろかただの自殺志願者だった自分が月を見ながら美少女と語らい笑い合っている。そんな自分が妙におかしくて、リュックに入ったロープの存在とリアルな重みが滑稽に思えてくる。僕は仮に死ぬにしても今日じゃないな、と考えを改めていた。