「メリークリスマス、今日もちゃんと来るなんてえらいね!」
「君は僕が裏切るような人間だと思ってるの?」
「そんな雰囲気でしかないよね、君」
「僕だって傷つくよ」
「うける」
もうこの流れにツッコむのはやめた。面倒くさいし、優しいから。
「今日は教会に行こうと思います。異論はありますか」
「異論を言えるような人間じゃないです」
「犯罪者だもんね、君」
「…異論はありません」
「良し。」
彼女は僕をどこまで見下しているのか。でもよく考えれば、僕は犯罪者で、君は超能力者かエスパーだから妥当かな。
「教会で何するの」
「いい質問ですねぇ。今日は、月を見ます。あぁ、ちなみにたぶん終電か始発だから覚悟よろしく。電車ですぐだよ」
僕は、覚悟を決めた。
「眞上くん!電車苦手なら言ってよ!」
先程覚悟を決めたのに呆気なく僕は乗り物酔いをした。どうやら顔色が悪いらしい。彼女がオーバーなリアクションで心配している。
「大丈夫!?お水買ってこようか!?」
乗り物酔いに苦しんでいるときはありがたいけどオーバーなリアクションはやめてほしい。非常に申し訳ない気持ちはあるのだが、耳元で女子の高い声で話されるとより頭に響いてしまう。だからどうか、放っておいてほしい。でも我がままだとはわかっているが方向音痴のため置いていくのはやめてほしい。だからつまり、こんなにもわがままな僕が目の前の彼女にとってほしい行動は何も言わず待っててほしいということ。それだけです。
でもそんなこと、自分のICカードの残金で水を買って駆けつけてくれた彼女には口が裂けても言えない。
…異論はありません。
「もう大丈夫。ごめん、水、ありがとう。」
「君にしては珍しく素直じゃん。でも良かった、行こうか。行ける?」
彼女は心配してくれていた。数日前に会った、こんな僕を。もう残り少ない命を燃やして生きている彼女にとって、僕はどれほど憎かっただろう。目の前で、自ら死のうとしたんだから。僕はやっと、僕が犯した罪の重さを感じた。
「でもさ、君の行きたいところに僕なんかと行って、どこが楽しいの」
「…君と、死ぬ前に行きたいの」
彼女はたまに、納得はいくが胸を締め付けることを言う。僕の罪が重くなる。
「さ、この階段上ったらすぐだよ。」
階段。最後のラスボスだな。最後のラスボスなんて腹痛が痛い、骨折が折れたと同じことを考えてしまった自分を恥じる。情けない。18時に駅を出て、もう20時手前。
「結構早く着いちゃった。中で待とうか。」
「うん。」
「よし、入ろう。」
初めて入った教会は、美しいの一言で、それ以外に合う言葉がわからないほどだった。
「ごめんね、早く着きすぎちゃったから、寝ててもいいよ」
この場にいるのに寝るなんて勿体無いと思えるほどの教会。僕は寝ないと誓った。
「あれ、寝てた!?」
「がっつり寝てた」
覚悟を決めた自分が情けない。
「さ、そろそろかな。もう23時50分。」
彼女はそれだけ言って外に出た。僕も続く。
外には、壮大な真っ黒のキャンバスに、月が一つ。淋しげなようで、眩しい。
「君が…生きていて良かった」
本心が防波堤を越えて押し寄せる。彼女を困らせてしまうだけなのは分かっているけど、抑えきれない。ごめん。
「私…そんな早くは死なないよ」
彼女に軽く笑われてしまったけど、笑われて良かったと思う。誰も何も言わずただひたすらに月を眺め続ける。彼女の横顔は底抜け明るい性格とは裏腹に、どこか寂しい感じがした。
「…眞上くん。」
「…はい。」
「人間は、やりたいこと、全部できると思う?」
「急にどうしたの?」
「ううん。ただ、できるかなぁって。」
「…不安になったの?」
「…うん。私さ、」
笑ってるのか泣いているのかわからない顔をしてこちらを見つめる彼女。
「死ぬの、怖いんだ。」
そっか。誰だって、怖いんだ。僕だって怖かった。あの日。ただ生きてることに疑問を持った日。でも、そうだ。死ぬのが怖くないのなら、もっと早く死んでただろう。他の人だって、もっと多くの人が死んでただろう。この世の人、みんな、弱いんだ。生きる勇気が無ければ、死ぬ勇気もない。
「でもね、もちろん余命のことは友達に言えない。家族に言ったら泣いて泣いてすごいことになっちゃう。家中水没だよ。…結果、君にしか言えない。これも罪の償いだと思って、軽く笑って聞いておいてよ。」
「笑わないよ。」
「君にしては真面目に返答ありがとう。」
また月を見上げる彼女。その横顔に思いをぶつけた。ぶつけようとしたわけじゃない。ぶつかっちゃった。うん。たまたま、ぶつかっちゃっただけ。
「この世の人間、みんな弱い。弱すぎ。僕も含めて。たぶんこの世には生きる意味をわかれない人がいっぱいいるよ、僕と同じで。でもみんな、死ぬ勇気はない。弱すぎでしょ、わがまますぎでしょ。」
今までいちども涙を見せなかった彼女の眼に、涙が滲む。
「…でもさ、僕思うんだ。」
僕は少しでも彼女に生きてもらえるようにという願いを込めて、思ってること、吐き出してみた。
「別に、弱いのも悪くないなって。」
彼女の眼から、涙が溢れた。別に泣かせようとしたわけじゃないから、履き違えないでもらいたいんだけれど。でもぶつかっちゃったのも、少しは悪くなかったのかも。だって彼女が言ったから。
「…みんな、生きるの辛いんだ。一緒なんだ。」
って。そしてなにより。
「私って結構強いのかもねぇ。」
そう冗談のように言って、笑って見せてくれたから。
「…もうすぐだよ」
「…何が?」
「もうすぐ、23時59分になる。そしたら、月が翡翠色に光り輝く。その一分で、月へ願い事をして。そしたら何でも叶う。ただし、交換条件。願いと同じくらいの価値をもつものを捧げないといけない。この教会の周りじゃないと駄目なの。…100年に一度しか、この月見れないんだって。」
「…わかった。」
「…あと、一分。」
「君は僕が裏切るような人間だと思ってるの?」
「そんな雰囲気でしかないよね、君」
「僕だって傷つくよ」
「うける」
もうこの流れにツッコむのはやめた。面倒くさいし、優しいから。
「今日は教会に行こうと思います。異論はありますか」
「異論を言えるような人間じゃないです」
「犯罪者だもんね、君」
「…異論はありません」
「良し。」
彼女は僕をどこまで見下しているのか。でもよく考えれば、僕は犯罪者で、君は超能力者かエスパーだから妥当かな。
「教会で何するの」
「いい質問ですねぇ。今日は、月を見ます。あぁ、ちなみにたぶん終電か始発だから覚悟よろしく。電車ですぐだよ」
僕は、覚悟を決めた。
「眞上くん!電車苦手なら言ってよ!」
先程覚悟を決めたのに呆気なく僕は乗り物酔いをした。どうやら顔色が悪いらしい。彼女がオーバーなリアクションで心配している。
「大丈夫!?お水買ってこようか!?」
乗り物酔いに苦しんでいるときはありがたいけどオーバーなリアクションはやめてほしい。非常に申し訳ない気持ちはあるのだが、耳元で女子の高い声で話されるとより頭に響いてしまう。だからどうか、放っておいてほしい。でも我がままだとはわかっているが方向音痴のため置いていくのはやめてほしい。だからつまり、こんなにもわがままな僕が目の前の彼女にとってほしい行動は何も言わず待っててほしいということ。それだけです。
でもそんなこと、自分のICカードの残金で水を買って駆けつけてくれた彼女には口が裂けても言えない。
…異論はありません。
「もう大丈夫。ごめん、水、ありがとう。」
「君にしては珍しく素直じゃん。でも良かった、行こうか。行ける?」
彼女は心配してくれていた。数日前に会った、こんな僕を。もう残り少ない命を燃やして生きている彼女にとって、僕はどれほど憎かっただろう。目の前で、自ら死のうとしたんだから。僕はやっと、僕が犯した罪の重さを感じた。
「でもさ、君の行きたいところに僕なんかと行って、どこが楽しいの」
「…君と、死ぬ前に行きたいの」
彼女はたまに、納得はいくが胸を締め付けることを言う。僕の罪が重くなる。
「さ、この階段上ったらすぐだよ。」
階段。最後のラスボスだな。最後のラスボスなんて腹痛が痛い、骨折が折れたと同じことを考えてしまった自分を恥じる。情けない。18時に駅を出て、もう20時手前。
「結構早く着いちゃった。中で待とうか。」
「うん。」
「よし、入ろう。」
初めて入った教会は、美しいの一言で、それ以外に合う言葉がわからないほどだった。
「ごめんね、早く着きすぎちゃったから、寝ててもいいよ」
この場にいるのに寝るなんて勿体無いと思えるほどの教会。僕は寝ないと誓った。
「あれ、寝てた!?」
「がっつり寝てた」
覚悟を決めた自分が情けない。
「さ、そろそろかな。もう23時50分。」
彼女はそれだけ言って外に出た。僕も続く。
外には、壮大な真っ黒のキャンバスに、月が一つ。淋しげなようで、眩しい。
「君が…生きていて良かった」
本心が防波堤を越えて押し寄せる。彼女を困らせてしまうだけなのは分かっているけど、抑えきれない。ごめん。
「私…そんな早くは死なないよ」
彼女に軽く笑われてしまったけど、笑われて良かったと思う。誰も何も言わずただひたすらに月を眺め続ける。彼女の横顔は底抜け明るい性格とは裏腹に、どこか寂しい感じがした。
「…眞上くん。」
「…はい。」
「人間は、やりたいこと、全部できると思う?」
「急にどうしたの?」
「ううん。ただ、できるかなぁって。」
「…不安になったの?」
「…うん。私さ、」
笑ってるのか泣いているのかわからない顔をしてこちらを見つめる彼女。
「死ぬの、怖いんだ。」
そっか。誰だって、怖いんだ。僕だって怖かった。あの日。ただ生きてることに疑問を持った日。でも、そうだ。死ぬのが怖くないのなら、もっと早く死んでただろう。他の人だって、もっと多くの人が死んでただろう。この世の人、みんな、弱いんだ。生きる勇気が無ければ、死ぬ勇気もない。
「でもね、もちろん余命のことは友達に言えない。家族に言ったら泣いて泣いてすごいことになっちゃう。家中水没だよ。…結果、君にしか言えない。これも罪の償いだと思って、軽く笑って聞いておいてよ。」
「笑わないよ。」
「君にしては真面目に返答ありがとう。」
また月を見上げる彼女。その横顔に思いをぶつけた。ぶつけようとしたわけじゃない。ぶつかっちゃった。うん。たまたま、ぶつかっちゃっただけ。
「この世の人間、みんな弱い。弱すぎ。僕も含めて。たぶんこの世には生きる意味をわかれない人がいっぱいいるよ、僕と同じで。でもみんな、死ぬ勇気はない。弱すぎでしょ、わがまますぎでしょ。」
今までいちども涙を見せなかった彼女の眼に、涙が滲む。
「…でもさ、僕思うんだ。」
僕は少しでも彼女に生きてもらえるようにという願いを込めて、思ってること、吐き出してみた。
「別に、弱いのも悪くないなって。」
彼女の眼から、涙が溢れた。別に泣かせようとしたわけじゃないから、履き違えないでもらいたいんだけれど。でもぶつかっちゃったのも、少しは悪くなかったのかも。だって彼女が言ったから。
「…みんな、生きるの辛いんだ。一緒なんだ。」
って。そしてなにより。
「私って結構強いのかもねぇ。」
そう冗談のように言って、笑って見せてくれたから。
「…もうすぐだよ」
「…何が?」
「もうすぐ、23時59分になる。そしたら、月が翡翠色に光り輝く。その一分で、月へ願い事をして。そしたら何でも叶う。ただし、交換条件。願いと同じくらいの価値をもつものを捧げないといけない。この教会の周りじゃないと駄目なの。…100年に一度しか、この月見れないんだって。」
「…わかった。」
「…あと、一分。」