別に、死にたいわけじゃない。ただ、生きている今に疑問を持っただけ。よく、思い立ったら吉日と言うだろう。思い立ったから、行動に移してみることにしたんだ。
僕は、死んでみることにした。
さようなら、僕の人生。さようなら、眞上 瑞稀という人間。明日からはあの世で楽しくしろよ。こんな世の中、捨てちゃってさ。
そんなことをぼんやり考えながら屋上への扉に力を込める。まだ、通い始めて一年も経たないこの高校の、古い扉。シクラメンが花壇に咲き始めている。そしてもう通ることはないコンクリート製の地面を踏みしめた。怒りではない。なんで生きているんだろう。そんなたった1つだけの疑問を込めて。
「…死ぬの?」
背後で声がした。超能力者か、エスパーか。どちらでも構わない。別に、聞く気はないから。
「ねぇ、眞上くん、死ぬの?」
なんで名前知ってるんだ?思い立ったら吉日。僕の体はそれに慣れてしまったようだ。振り返ってしまった。そんなはずじゃなかったのに。
「やっと聞いてくれた。死んじゃうの?」
何度も同じ質問を僕に投げかけてくる人は、クラスメイトだった。それも、結構有名人。そこそこに顔が良いから男女関係なく友人が多いイメージの彼女。渡井 飛花だった。
「なんでここにいるんですか?」
本心だった。だって今は昼休み。彼女なら多くの友だちに囲まれているはずだろう。さらにこの屋上は立入禁止。校則を破るような人間ではないはずだ。
「自殺ってさ。自分を殺すって書くんだよ。知ってると思うけど。私は自分で自分は殺したくないんだけど、あなたは殺したいの?私は、自殺未遂をした人は殺人未遂をした人と同じ立場だと思う。1人の人間を殺そうとしたから。君その手で自分を殺すところだったよ。分かってんの。自分のやったこと、分かってんの。だから君はもう、犯罪者だよ」
―彼女の第一印象は、お説教おばさん。おばさんってほどの年齢でもないけれど。
「眞上くん。君はなんで死にたいと思うの?」
「生きる意味がないと思うからです。」
「は?」
「よく、意味は自分で探すものだって言いますけど。あれおかしいです。僕達人間は、いずれ絶滅するものです。生きている限り、それらは必ず絶える。そういうもんなんですよ。知ってますか。太陽って、50億年後くらいには光を失う。日光がなかったら生物は生きられない。そしたら、宇宙は最初に戻っちゃうと思う。そこをもし0としたら、人類が生まれる前も0だから、同じになっちゃう。そしたら太陽が今、100何代目とかでも全然おかしくない。人間が、生まれ変わっていても。何もおかしくなくなる。僕は、全く同じことを無量大数繰り返していると思う。その中の、ただ1人。すごい小さくて、頼りなくて。死んだらどうなるのかなって思った。だとしたら、人類が滅びる瞬間ってどこだろう。」
「うん、そっか。納得はいくね。」
僕は思っていることを何1つ残さず、初めて話した彼女に打ち明けた。彼女は黙って聞いていて、なにか言いたそうな顔をしていた。
「人類が滅びる瞬間か…」
「…」
「…」
「…なんか言ってくださいよ。」
「…見てみたい。…よし。そうだね、こうしよう。」
「どうしよう。」
「君は私のために生きることにしようじゃないか。」
「意味が理解できないじゃないか。」
「真面目な話だよ。」
「こっちも真面目ですけど。生きる意味がかかっちゃってるから。」
「うける。まぁ良いや。君は、私のために生きることにしよう。」
「うけるって棒読みで言って済ませるのやめてくれません?それも含め、全然理解できないんですけど?なんで僕が君のために生きるんですか?なんなら僕のほうが早く死んじゃうかもだし。」
誰も何も言わない。沈黙。しばらくして、彼女は口を開いた。
「だって私、余命あと一年くらいだから。」
今彼女は何か言っただろうか。少なくとも、僕が今までぼんやりと生きてきた中では聞いたことのない言動。余命。だったはずだ。
「眞上くん?聞いてる?」
「ごめん、何ですか」
耳が悪かっただけだろう。
「だから、私あと一年で死ぬんだよ」
いやいや、まだ僕は粘る。もう一度聞き返そうとした時、彼女に急かされた。
「死にたいくらいならもうすぐ死ぬ私のために生きてって言ってんの」
「君は、死ぬの?」
「うける、さっき私が聞いた質問。返されちゃった。」
「うけるって棒読みで過ごさないでもらいたいのと、何度でも構わず答えてもらいたいんだけど。」
「どっちでも良いや。とにかく。暇か、暇じゃないか。」
「自殺するのを君のせいで失敗しちゃったくらい、暇なのかも」
「人のせいにしないの。とにかく暇なんだね。事務連絡はまた明日するよ、連絡先交換しよう」
彼女に勝手に話をされ、丸く収めさせられ、勝手に帰られた。僕は、何をしているのだろう。僕の手には彼女の連絡先を表示したスマホだけが残されていた。
―なぜ僕は、まだこの世にいるのだろう。死んでるはずだったのに。
僕は、死んでみることにした。
さようなら、僕の人生。さようなら、眞上 瑞稀という人間。明日からはあの世で楽しくしろよ。こんな世の中、捨てちゃってさ。
そんなことをぼんやり考えながら屋上への扉に力を込める。まだ、通い始めて一年も経たないこの高校の、古い扉。シクラメンが花壇に咲き始めている。そしてもう通ることはないコンクリート製の地面を踏みしめた。怒りではない。なんで生きているんだろう。そんなたった1つだけの疑問を込めて。
「…死ぬの?」
背後で声がした。超能力者か、エスパーか。どちらでも構わない。別に、聞く気はないから。
「ねぇ、眞上くん、死ぬの?」
なんで名前知ってるんだ?思い立ったら吉日。僕の体はそれに慣れてしまったようだ。振り返ってしまった。そんなはずじゃなかったのに。
「やっと聞いてくれた。死んじゃうの?」
何度も同じ質問を僕に投げかけてくる人は、クラスメイトだった。それも、結構有名人。そこそこに顔が良いから男女関係なく友人が多いイメージの彼女。渡井 飛花だった。
「なんでここにいるんですか?」
本心だった。だって今は昼休み。彼女なら多くの友だちに囲まれているはずだろう。さらにこの屋上は立入禁止。校則を破るような人間ではないはずだ。
「自殺ってさ。自分を殺すって書くんだよ。知ってると思うけど。私は自分で自分は殺したくないんだけど、あなたは殺したいの?私は、自殺未遂をした人は殺人未遂をした人と同じ立場だと思う。1人の人間を殺そうとしたから。君その手で自分を殺すところだったよ。分かってんの。自分のやったこと、分かってんの。だから君はもう、犯罪者だよ」
―彼女の第一印象は、お説教おばさん。おばさんってほどの年齢でもないけれど。
「眞上くん。君はなんで死にたいと思うの?」
「生きる意味がないと思うからです。」
「は?」
「よく、意味は自分で探すものだって言いますけど。あれおかしいです。僕達人間は、いずれ絶滅するものです。生きている限り、それらは必ず絶える。そういうもんなんですよ。知ってますか。太陽って、50億年後くらいには光を失う。日光がなかったら生物は生きられない。そしたら、宇宙は最初に戻っちゃうと思う。そこをもし0としたら、人類が生まれる前も0だから、同じになっちゃう。そしたら太陽が今、100何代目とかでも全然おかしくない。人間が、生まれ変わっていても。何もおかしくなくなる。僕は、全く同じことを無量大数繰り返していると思う。その中の、ただ1人。すごい小さくて、頼りなくて。死んだらどうなるのかなって思った。だとしたら、人類が滅びる瞬間ってどこだろう。」
「うん、そっか。納得はいくね。」
僕は思っていることを何1つ残さず、初めて話した彼女に打ち明けた。彼女は黙って聞いていて、なにか言いたそうな顔をしていた。
「人類が滅びる瞬間か…」
「…」
「…」
「…なんか言ってくださいよ。」
「…見てみたい。…よし。そうだね、こうしよう。」
「どうしよう。」
「君は私のために生きることにしようじゃないか。」
「意味が理解できないじゃないか。」
「真面目な話だよ。」
「こっちも真面目ですけど。生きる意味がかかっちゃってるから。」
「うける。まぁ良いや。君は、私のために生きることにしよう。」
「うけるって棒読みで言って済ませるのやめてくれません?それも含め、全然理解できないんですけど?なんで僕が君のために生きるんですか?なんなら僕のほうが早く死んじゃうかもだし。」
誰も何も言わない。沈黙。しばらくして、彼女は口を開いた。
「だって私、余命あと一年くらいだから。」
今彼女は何か言っただろうか。少なくとも、僕が今までぼんやりと生きてきた中では聞いたことのない言動。余命。だったはずだ。
「眞上くん?聞いてる?」
「ごめん、何ですか」
耳が悪かっただけだろう。
「だから、私あと一年で死ぬんだよ」
いやいや、まだ僕は粘る。もう一度聞き返そうとした時、彼女に急かされた。
「死にたいくらいならもうすぐ死ぬ私のために生きてって言ってんの」
「君は、死ぬの?」
「うける、さっき私が聞いた質問。返されちゃった。」
「うけるって棒読みで過ごさないでもらいたいのと、何度でも構わず答えてもらいたいんだけど。」
「どっちでも良いや。とにかく。暇か、暇じゃないか。」
「自殺するのを君のせいで失敗しちゃったくらい、暇なのかも」
「人のせいにしないの。とにかく暇なんだね。事務連絡はまた明日するよ、連絡先交換しよう」
彼女に勝手に話をされ、丸く収めさせられ、勝手に帰られた。僕は、何をしているのだろう。僕の手には彼女の連絡先を表示したスマホだけが残されていた。
―なぜ僕は、まだこの世にいるのだろう。死んでるはずだったのに。