星弥(せいや)達と別れた後、(はるか)蕾生(らいお)鈴心(すずね)の三人は無言のまま少し歩いて、銀騎(しらき)研究所からすぐ隣の公園の敷地にたどり着いた。先頭を歩いていた永はベンチがある場所で止まる。
 そこは以前に蕾生が初めて(ぬえ)の呪いの話を聞いた場所だった。
 
「ライくん、座って。どうかリラックスして聞いて欲しいんだ」
 
 先にベンチに腰掛けた永は優しい口調で隣に座るよう促す。
 
「永は、いつも過去のことを話す時はそう言うな。その理由ってもしかして──」
 
 座りながらそう尋ねると、永は頷いて答えた。
 
「うん、そうだね。君が鵺化してしまう条件について確かなことはわかってないんだけど、君が精神的もしくは肉体的に大きな衝撃を受けた時が一番危険なんだ」
 
「そうか……」
 
 蕾生が先程の詮充郎とのやり取りで受けた衝撃を思い出していると、続けて鈴心が隣に座りその手を取った。
 
「ライ、今からする話は現在の貴方とは関係のない話だと思って聞きなさい。それも難しいでしょうけど、あまり深刻に捉えてしまうと……」
 
「な、なんだよ……」
 
 蕾生の手をきゅっと握る鈴心の手はとても小さかったが、なんだか姉のような温もりがあり、蕾生は少し照れ臭くなった。
 
「うん。これは遠い昔の話だ。童話でも聞くつもりで聞いて欲しい」
 
「わかった」
 
 そうして永も少し口調を明るくして語り始めた。

  
(はなぶさ)治親(はるちか)が鵺を討伐した後、その亡骸は木舟に乗せられて川に流された。その後、帝はすっかり回復して、彼は褒美に高い官職を得た。
 それから一年は何事もなく穏やかな日が続いた。けれど、当時の有力武家と朝廷に対立した皇子に与したことで戦になった」
 
「戦……勝ったのか?」
 蕾生が聞くと永は苦笑しながら続ける。
 
「ボロ負けだったよ。彼は高い地位に昇って調子に乗ってたんだ。戴いた皇子も討たれ、いよいよ切腹するしかなくなった。
 けれどその前に妻と幼い子どもを逃す必要があった。妻子だけを野山に放り出す訳にいかない。彼は最も信頼している部下の雷郷(らいごう)を護衛につけた。めっちゃ嫌がられたけどね。でも終いには承知してくれた」
 
 蕾生はその当時の雷郷に思いを馳せる。今の自分でもそうなったら嫌がるだろう。死ぬ時こそ永の側にいたい。けれど信頼にも応えたい。そんな心情が手に取るようにわかる感覚は初めてだった。
 
「これで心残りもなくなって──リンを伴って死出の旅路へ、と思った矢先に逃したはずの部下が一人血相を変えて戻ってきた」
 
 一息吐きながら話す永、それに聞き入りながら蕾生の手を優しく握っている鈴心。そんな二人の間で蕾生は当時の光景が目の前に現れるような感覚がしていた。