「外道だ……」
 
 蕾生(らいお)がそう呟いたことでなんとか平静を保った(はるか)は、鈴心(すずね)に疑問をぶつける。
 
「それで? キクレー因子が暴走するとどうなるんだ?」
 
「それはまだ研究段階なんです。星弥(せいや)と私は体内にキクレー因子を持つ人間として経過観察の身でした。ただ、星弥の方は早いうちに因子が活発ではなくなったので、普通の子どもと変わらない生活をしてきました」
 
「ああ、それで彼女はあまり詮充郎(せんじゅうろう)の関心を得られてないんだ」
 
 いつだったか、星弥は「わたしはお祖父様には可愛がられていない」と言っていたのを永は思い出す。その理由が実に詮充郎らしくて反吐が出ると思った。
 
「その通りです。ですからお兄様もこのような事態は予想していなかったようで、今も化学・陰陽術の両方面で調べています」
 
「俺達に助けてと言ったのは?」
 
 蕾生が聞くと、鈴心ははっきりと答えた。
 
「それは、ハル様とライにもキクレー因子があるからです」
 
「──やっぱり」
 
 そう聞いた永は肩で息を吐いた。
 
「俺達にも?」
 
「まあ、道理だね。僕らは(ぬえ)の呪いを直接受けている。ライくんは特に、だ」
 
「そう……か」
 
 先日、二体の鵺の遺骸を見て、何か同じものを感じたのはこれだったのかと蕾生は思い至った。
 
「恐らく、ライの中にある因子が最も活発であるとお兄様はみています。銀騎(しらき)研究所にあるものはどれも遺骸などから抽出したサンプルばかりで……」
 
「僕らの持ってる因子の方が、活きがよくてピチピチしてるって?」
 
「はい。私達三人の力があれば、星弥の中の暴走した因子を鎮めることができるとお兄様は考えています」
 
 そこまで聞くと、永は軽蔑をこめた声音でその続きを当ててみせた。
 
「それで僕らに彼女の所へ来て欲しいって訳か」
 
「はい……このままでは星弥は目覚めないかもしれない。お願いします、ハル様、ライ。星弥を助けてください!」
 
 必死な鈴心を見るのはこれで二度目だ。蕾生の時と、今度は星弥の危機。鈴心にとってはどちらも同じくらいに重要なのだろう。その様子を見れば蕾生には断る理由が見つからなかった。
 
「永──」
 
 当然永も行くものだと思って蕾生が呼ぶと、永は恐ろしいほど冷たい声で言い放った。


 
「嫌だね」