「その後は暗転です。私達の意識はそこで途切れました」
 
「次に気がついたら、数十年経っていて、しかも子どもだった──という訳」
 
 鈴心(すずね)の言葉に続けて、(はるか)は眉を八の字に曲げて少し笑った。
 
「それが、最初の転生?」
 
「自分が転生したんだとわかったのは、その生が終わる直前だった。その後も転生を繰り返して──何回か経験していくうちに少しずつシステムみたいなものが分かり始めて、今に至る」
 
 これが蕾生(らいお)がずっと知りたかった最初の出来事。以前に聞いた時より生々しいことは当然だった。
 そのせいなのかはわからないが、蕾生には当時の状況をありありと思い浮かべることができた。はっきりとした記憶が蘇った訳ではないが、実感を持って想像できる。
 だからこそ、永と鈴心が辿ってきた長い時間を今まざまざと感じるに至った。
 
「何度も、何度も、九百年間……」
 
 何十回も殺し殺され、それはまさに生き地獄ではないか。
 
「いたずらに過ごしてきたつもりはないんですが、未だわからないことばかりなんです」
 
 蕾生の気持ちを汲み取って、鈴心も永も何でもない事のように、あえて淡々と語った。
 
「そうだね。ライくんだけが鵺に変化するのは何故か。君が一番多く返り血を浴びたからだっていうのは、僕とリンがこれまでから考察した理由に過ぎないし。一番最初に鵺が雷郷(らいごう)を使って復活したのだとして、僕とリンを殺しただけでは飽き足らず、何度も転生させてそれを繰り返す理由も、まだわからない」
 
 そうして、肩でもう一度大きく息を吐いて結んだ。
 
「とにかく僕らは生まれ変わる度に、君を鵺に変化させないことを第一目的としてやってきた。鵺にならなければ、もしかして僕らはもう少し長く生きられるかもしれないと思ってね」
 
「けれど、私達の事情は奇異なものですから、外部からの干渉も多くてこれまでに貴方の鵺化を防げたことがありません」
 
 鈴心が言うと、永は少し顔を曇らせて肩を竦める。
 
「僕らの受けた呪いは、そっち方面ではだいぶ魅力的らしいんだよね。銀騎(しらき)に目をつけられてからは、あいつらから逃げるだけでせいいっぱいの時も沢山あった。ほんと、銀騎のせいで全然事態が前に進まないんだ」
 
 迷惑な話だよ、と顔をしかめながら笑う永を見て、蕾生は腹を括らなければならないと思った。
 
「──鈴心、もういい。大丈夫だ」
 
 言いながらその手を話すと、鈴心は心配そうに蕾生を見上げた。
 
「本当に?」
 
「何ともねえって、少しは信用しろよ」
 
 笑って言ったつもりだったができていただろうか。
 そんな蕾生の虚勢を知っているかのように、鈴心はじっと蕾生を見続けている。
 
「……」
 
 我慢しなくていい。
 文句があれば言え。
 何でもいいから吐き出してしまえ。
 
 ──そんな圧を感じたので、蕾生は率直な感想を述べる。
 
「正直言えば……たまらねえよ。俺は何度も何度もお前らを殺してきたってことになる。それだけで死にたくなるほどキツい。でも、俺が思い悩むだけでも鵺化するかもしれない──なら俺は悩んだり後ろ向きになることも、許されない」
 
 自分のことなのに、そう思い悩むことができない。他人の話だと割り切ることは罪深い。ならばどうすればいい?