「口を挟んで申し訳ないけど、お祖父様の研究室は核シェルター並でね。万が一彼が(ぬえ)化したとしても、絶対に外には出さない自信はあった」
 
 皓矢(こうや)がしれっと言う。妹への怒りを自分に向けるように。
 その目論見通り、(はるか)は皓矢を物凄い形相で睨みつけた。
 
「お祖父様も僕も、最悪、鵺化した彼に殺される覚悟はしていたよ。星弥(せいや)諸共ね」
 
「黙れ、クソガキ」
 
 どうせ口だけの殊勝な態度だと永は切り捨てる。
 だが、言葉通りに受け取った星弥はショックを隠せずに呟いた。
 
「わたし、本当に何もわかってなかった……」
 
 この場において、丸く収める言葉を言える者はいなかった。自然と沈黙に包まれる。

 
  
 少しの間の後、それを破ったのは蕾生(らいお)だった。
 
「永」
 
「どうした、ライくん? まだ気分悪い?」
 
 呼ばれて振り返った永の顔はいつもと同じで優しかった。
 
「いや……お前が今まで言わずにいたこと、全部話してくんねえか」
 
「……」
 
 その優しさに、今まで甘え過ぎていたのかもしれない。
 
「もう、隠す必要もないだろ」
 
 だから、これからは全てを分け合いたい。そんな気持ちを込めると、永もそれを理解したように頷いた。
 
「……そうだね、君はきちんと自分の運命を知る権利と義務がある」
 
「ああ」
 
 大丈夫だ。心の準備はできた。
 
「わかった。もう薄暗いけど、家は──危険かな、公園でもいい?」
 
 蕾生が頷いたのと同時に皓矢は右手を微かに動かしたが、めざとい永に見つかった。
 
「おい、密偵なんか放ってみろ。この場で殺す」
 
 永の敵意も可愛い虚勢だととっている皓矢は、苦笑しながら右手を下ろした。
 
「君に殺されるほどヤワではないけど。わかったよ」
 
 皓矢を少し気にした後、鈴心も永に駆け寄る。
 
「私も参ります」
 
「もちろん」
 
 永がにっこり笑って答えると、鈴心は遠慮がちに星弥の方を向いて言った。
 
「星弥は家で待っていてください、ね?」
 
「うん。わたしはどう考えても邪魔だから」
 
 一歩引いて遠慮した星弥に、蕾生はやっと声をかける気持ちになった。
 
「──銀騎(しらき)
 
「?」
 
「今日のことは気にしなくていい。俺は、大丈夫だから」
 
「──ありがとう」
 
 そこでやっと少し笑った星弥の瞳が潤んでいるのを蕾生は見た。
 今日のことは誰が悪いとか、許す許さないの話ではないのだと。全ては運命に翻弄された結果なのだと、蕾生は実感したのだった。