「素晴らしい。第一関門突破、おめでとう」
 
 部屋中に乾いた拍手の音が響く。大仰に言う詮充郎(せんじゅうろう)に、(はるか)は怒りをこめた目で睨みつけた。
 
「テメエ……ッ」
 
 それを受けてサッと前に立ちはだかる皓矢(こうや)を特に気にもせずに、詮充郎は事務的な態度で別のボタンを押した。
 
「さて、次はこれを見ていただこう」
 
 すると詮充郎の座る机の後方に棚が現れる。そこには一振りの日本刀が鞘に入った状態で掛けてあった。橙色の飾り紐がその場の全員の目をひいた。
 
「それは──!」
 
 永が思わず身を乗り出すと、詮充郎は満足げに笑う。
 
「お前が懸命に探し回っているのはこれだろう?」
 
萱獅子刀(かんじしとう)……そんなところに」
 
 鈴心(すずね)の言葉に蕾生(らいお)も日本刀を見やる。だが、(ぬえ)の遺骸ほどの──心を揺さぶられるような気持ちは湧かなかった。
 
「これも私が丁寧に保管しておいてやったのだ。謝辞くらいは述べるべきでは?」
 
「誰が!」
 
 永が吐き捨てると、詮充郎は片眉を上げて挑発するように返す。
 
「これをくれてやると言ったら?」
 
「なんだと?」
 
「萱獅子刀を渡す見返りに、(ただ)蕾生(らいお)をしばらく預からせて欲しい」
 
「ふざけるな!」
 
 取り付く島もない永の態度にも、余裕の笑みで詮充郎は続けた。
 
「私の望みが叶ったら、皓矢を貸してやろう」
 
「ハ?」
 
「皓矢の力と萱獅子刀をもって、鵺化の呪いを解く方法を教えてやろう。破格の条件だとは思わないかね?」
 
 永は開いた口が塞がらなかった。そんなことが可能だとは到底思えなかったからだ。
 
「本当ですか?」
 
 だが、鈴心は光明を見たような顔をして聞き返す。それに気を良くした詮充郎はニヤリと笑って蕾生に問いかけた。
 
「どうする? ケモノの王よ」
 
「……」
 
 蕾生には答えが出せずにいた。まだそこまでの判断ができるほど自分の状況が飲み込めていない。頭ごなしに否定し続ける永と、少し信じ始めている鈴心の間で、蕾生の心は揺れ動いていた。
 
「お前なんかに呪いが解ける訳がない! 帰るぞ、ライ、リン!」
 
 怒り心頭の永の言葉は、蕾生と鈴心に有無を言わせない迫力があった。優先すべきは永の判断だ、と蕾生は思い直す。
 
「いいだろう、今日はここまでだ。よく考えなさい。良い返事を期待している」
 
 意外にも詮充郎はあっさり引き下がった。だがその言葉は永ではなく蕾生に向けたものだった。
 ぶりぶり怒って部屋を出ていく永に従って、鈴心も部屋を出ようとしていた。蕾生もそれに続くが、詮充郎の視線が気になってもう一度振り返る。
 
 詮充郎は蕾生を見つめて軽く笑っていた。
 蕾生の揺れる心を見透かしているかのように。