激昂する(はるか)を他所に、詮充郎(せんじゅうろう)は涼しげな顔で傍に控える皓矢(こうや)に尋ねた。
 
「まあ、仕方ない。皓矢、データはとれたか?」
 
「はい、概ね」
 
「なんだと?」
 
 短い皓矢の頷きに永は少し狼狽した。その様を見て詮充郎はまたニヤリと笑う。
 
「この部屋には、生体解析AIを搭載した監視カメラを数台設置しているのでね。外からわかる程度の情報はとらせてもらったよ」
 
「彼らが座っている長椅子から接触して、微小ではありますがその気の流れも式神に写しました」
 
 皓矢の事務的な付け足しに、永は弾かれたように立ち上がった。
 
「兄さん! こっそりそんなことするなんて!」
 
 星弥(せいや)が非難すると、皓矢は少しも笑わず、無表情で言った。
 
「だから正直に報告したんだよ、せめてもの誠意でね」
 
「──話し合いの余地なんて最初からなかったな、帰るぞライ、リン」
 
 永はとうに愛想を尽かしており、蕾生(らいお)鈴心(すずね)を促す。
 言葉には出さないものの、詮充郎と皓矢の汚い罠のかけ方に辟易した蕾生はすぐさま立ち上がった。
 
 だが、その瞬間、蕾生の全身に電流が走った。手足の自由がきかない。そこから動けなくなった。
 
「ライ!?」
 
 鈴心が叫ぶが、そちらを見ることもできなかった。
 
「な……んだよ、これ」
 
 指一本動かすことも叶わず、額に脂汗が浮くのがわかる。呼吸も苦しくなってきた。
 
「皓矢、このガキ!」
 
 永が即座に状況を理解して皓矢を睨んだ。皓矢が金縛りを蕾生にかけていたのだ。
 
「お祖父様、約束が違います!」
 
 星弥も泣きそうな声で訴える。だが詮充郎はゆるりとした動作で手を振り、のんびりとした声で場を制した。
 
「まあ、待ちなさい。話はまだ終わっていない」
 
 完全に優位に立ったと確信して笑う詮充郎と、皓矢の術により自由を奪われた蕾生の苦しい表情を見比べて、苦々しげに歯噛みしながら永はもう一度ソファの端に座り直した。
 
「わかった」
 
 永がそうしたことで、蕾生にかけられた金縛りはすぐに解かれる。その反動で体のバランスを崩し、ソファに腰を沈めた。同時に立ち上がっていた鈴心が蕾生を気づかって隣に腰掛ける。
 
「ライ、大丈夫ですか?」
 
「ああ……」
 
 蕾生はまだ整わない呼吸でそう呟くのが精一杯で、永が余裕をなくし、詮充郎を睨みつけるだけの状態でいるのに何もできない自分が情けなかった。