星弥(せいや)を責めないで欲しい。この子は懸命に君達とお祖父様の間に立とうとしている。僕個人としては妹を巻き込まれて少し困惑しているんだけど」
 
 皓矢(こうや)の擁護はそれまで黙って悔しがっていた(はるか)の逆鱗に触れた。
 
「は? 先にリンを掻っ攫ったのはそっちだろ? そのお返しに人質にとったって良かったんだぜ?」
 
「喧嘩腰なのは元気で結構だけど、冷静になってもらえないと僕はますます困るな」
 
 二人の交戦的な空気を読み取ったのか、皓矢の肩に止まっている鳥がチチチと小さく鳴いた。それを素早く察して星弥が声を荒げる。
 
「兄さん! やめて! わたしのお友達に酷いことしないで!」
 
「ああ、すまない。この子は僕の心を汲みすぎるところがあってね」
 
 言いながら皓矢は肩の鳥の喉元を撫でる。鳥は気持ちよさそうに頭を皓矢の頬に擦り寄せた。
 
周防(すおう)くん、お願い。冷静に、話し合って欲しい。お互いの妥協点がきっとあるはずだから」
 
 永に向き直って言う星弥の顔は真剣だったが、永はそれを一蹴した。
 
「前も言ったけど、そんなものがあるなら銀騎(しらき)とここまで拗れない。──だけど、僕らはその話し合いとやらに応じないと無事では済まなそうだ」
 
 皓矢とその傍の鳥から、威圧のようなものを感じた永はため息を吐いて観念した。皓矢は慇懃無礼な笑みを浮かべて言う。
 
「本当に申し訳ない。実はお祖父様がとても乗り気で、早く君達と会いたいとおっしゃっている」
 
「ジジイもいるのか?」
 
「……ではついてきてくれるね? お祖父様が自室でお待ちだから」
 
 永の詮充郎に対する反応の早さに苦笑しながら皓矢は入り口に向かって歩いた。
 
「永……」
 
 蕾生(らいお)が出方を窺っていると、永は二人に向き直って意を決する。
 
「ライ、リン、行こう。とりあえずあのクソジジイにリンの件について文句言ってやる」
 
「わかった」
 
 蕾生の返事に続いて鈴心(すずね)も無言で頷いて、一同は倉庫を後にした。
 外に出た途端、湿っぽい風が吹き抜けていく。蕾生は永の剣幕が少し怖かった。