「──で、銀騎(しらき)研究所の身内が一応二人もいる。これを大いに使わせてもらおう」
 
 仕切り直すように、(はるか)が机に体重を乗せて前のめりになりながら一同を見回した。
 それにいち早く反応したのは鈴心(すずね)だった。
 
「研究所内の詳細が必要ということですね」
 
「そう。リンは研究所に顔パスなんだろ? 最初に会った時も公開されてない場所にいたしね」
 
「ああ、あの温室ですね。確かにあそこはお祖父様から特別に許されて出入りしていましたが──」
 
 鈴心が少し考えている間に、星弥(せいや)は自嘲するように笑って言った。
 
「私は役に立たないかも。研究棟の方にはほとんど行ったことがないの」
 
「まあまあ、それでも僕らよりは情報持ってるでしょ。どんな小さなことでもいいから」
 
「うん……」
 
 あまり乗り気ではない星弥の気持ちをわざと無視して、永はカバンから薄い冊子を取り出した。
 
「で、これが一般に向けて銀騎研究所が出してるパンフレットね。これが表向きの見取り図。実際はどうなんだい? リン」
 
「ここに書き足してもよろしいですか?」
 
「もちろん」
 
 永の承諾を得ると、鈴心はパンフレットを自分の机に引き寄せてボールペンで四角形をいくつか足したり、線で囲ったりして見せる。
 
「このA棟からF棟の建物は図の通りで間違いありません。研究員だったら自由に出入りできるエリアです。秘されているのはこう……」
 
 書き加えた四角形をボールペンで指しながら鈴心は説明していく。
 
「まず、ハル様とライが最初に立ち入ったのはここの温室です。ここには研究途中の植物標本が植えられています」
 
「なるほど」
 
 永の視線はパンフレットに注がれているので、星弥もそこを指さして丸くなぞる。
 
「それから自宅はこの辺かな。薮の中を隔ててね」
 
 星弥の説明を受けて、鈴心が代わりに自宅の場所を書き加えた。
 
「そうですね。後は私も場所は知らないのですが、お祖父様専用の研究施設があると聞いたことがあります」
 
「じゃあ、そこだろ」
 
 今までの図解が茶番だったとでも言うような鈴心の決定打に、蕾生(らいお)は反射的につっこんでいた。
 永もそれに賛成して頷く。

「──確かに。他人が往来できる場所に萱獅子刀(かんじしとう)を保管してるとは思えないし。場所に心当たりは?」
 
「そこに出入りできるのはお兄様とお祖父様の秘書だけで、お兄様をつけた事も何度かありますがいつも見失ってしまって──」
 
 鈴心の答えに蕾生は訝しんでまたつっこむ。
 
「ええ? 広いったって街の中じゃねえんだから」
 
 すると星弥が真面目な顔で蕾生の疑問に答える。
 
「結界が張ってあるのかも。兄さんを見失うっていうことは目眩しの術かなんか使ってるんだと思う」
 
皓矢(こうや)を見失うのはどの辺?」
 
 永が聞くと、鈴心は首を振って申し訳なさそうに答えた。
 
「それが……いつも場所が違うんです」
 
「──念が入ってるなあ」
 
「さすがに敷地内のどこかにはあると思うんですが……」
 
 言いながら鈴心はパンフレットの地図を睨みながら考えていた。だが星弥が身も蓋もないことを言う。
 
「結界の中なら多分目視はできないと思うよ」
 
「じゃあ、やっぱりそこに刀があるのは確定だな」
 
 蕾生がそう結論づけると、鈴心は少し何かを考えていた。