星弥(せいや)が黙ってしまった(はるか)鈴心(すずね)の雰囲気を割って疑問を投げかけた。
 
「待って、弓と刀が揃わなかったらどうなるの? (ぬえ)に勝てるの?」
 
 至極当然の疑問だった。永はとうとう気づかれたか、という顔で観念して言った。
 
「さっきライくんには勝てるって言ったけど、シンプルに言い過ぎたね。正しくは勝てる確率が上がる、だ」
 
「実は過去に弓と刀が揃ったこともありました。でも──」
 
「そう。二つ揃えても勝てなかった」
 
 永と鈴心だけが共有している悲しみと虚しさ。それを目の当たりにした蕾生(らいお)は息を呑んだ。やはり運命は自分が考えていたよりも残酷な事実を突きつける。
 
「マジかよ……」
 
 蕾生すらそれだけ言うのがせいいっぱいで、星弥にいたっては一言の慰めも出ない。どんな言葉を紡ごうと、永と鈴心の苦しみを和らげるのは不可能に思えた。
 
「弓と刀、それに後何が必要なのか。それは未だにわからない。後ろ向きな表現はしたくないけど、弓と刀と、他に必要なものがあっても、それで勝てるのかすらもわからない」
 
 永の言葉を聞いて、わからないのは自分だけではなかったのだ、と蕾生は驚愕した。
 
「それは……だいぶしんどいね」
 
 星弥もせめて共感するしかなかった。
 
「例えば今回も失敗したとして、次の転生に有用な情報が取得できればいいのかもしれない。でも、果たして次も転生できるのか? さあ、それも確かじゃない」
 
 永が初めて不安を吐露する。
 
「……絶望するよね」
 
 これまでの試行錯誤の経験はあっても、実は手探りだし、確証も得ていないまま記憶のない蕾生を導きながら光の見えない闇を進んでいく。
 それは途方もないことで、その状態を九百年も過ごしている永と鈴心の不安は蕾生の比ではないだろう。

 それを思うと、どうして最初から全部教えてくれないんだと駄々をこねる自分が情けなくなってくる。
 
 それでも。
 それなら。
 空っぽのバカな自分にできることは。
 
「なら、これが最後だな」
 
 永が真実を見つけてくれると信じて、がむしゃらに進むしかない。
 
「今回で絶対に鵺に勝つ。次回の転生のことなんて考えねえ。一期一会、だ!」
 
 その場の全員に、自分の決意を表明するように蕾生は拳を握って宣言した。
 
 すると最初に笑ったのは鈴心だった。
 
「──微妙に意味が違いますが、気持ちはわかります」
 
 続けて永も大袈裟に笑う。
 
「ハハッ、だから僕らには君が必要なんだ、ライ」
 
 こいつらが笑顔になれるなら、バカでも何でもい。
 
「まっさらな記憶の(ただ)くんだから出る結論だね」
 
「バカってことか?」
 
「褒めたんだよう」
 
 星弥も重い空気を変えようと少しふざけて笑う。そんな場に従って永も更に明るく笑った。
 
「弱音吐いてゴメン! 今度こそ頑張ろう!」
 
 その決意が悲壮なものだったとしても、笑って言えば希望に変えられる。
 これは誤魔化しではない、きっと変えられると信じる。信じて進んでいく。
 
 そういう決意を、今、ここでしたんだ──と頷き合って皆互いを勇気づけた。