雨が続く週の半ば。ここ最近の天気は部室に引き篭もるには最高だと言う理由で、コレタマ部の会議が開かれた。
 
「さあて、野外活動も一回やったし、しばらく部室に引きこもっても大丈夫だろう、ということで……これからの本格的な話し合いをします!」
 
 (はるか)は部長らしくその場を仕切り、クラブ発足人の星弥(せいや)も笑顔で返事をするなど付き合いの良さを発揮している。
 
 鈴心(すずね)は背筋を延ばして前のめりで永の言葉を真面目に聞いていた。
 自分の隣でそんな姿勢でいられると少し窮屈さを蕾生(らいお)は感じる。そもそも部室も机も椅子も、蕾生にはどれもサイズが小さい。
 
「まず何をするんだ?」
 
 蕾生が問うと、永は明るい調子で答えた。
 
「ライくんには少し話したけど、まずは萱獅子刀(かんじしとう)を探します!」
 
「って言うと、あれか、(はなぶさ)治親(はるちか)(ぬえ)を退治した褒美にもらったっていう──」
 
「そう、その刀!」
 
 まるでクイズ番組の司会のような仕草で蕾生を指さす永の隣で星弥が首を傾げていた。
 
「カンジシ……?」
 
「漢字ではこう書きます」
 
 鈴心は阿吽の呼吸でノートを取り出し、文字を書いて星弥に見せた。チラと目に入ったノートが小学生の雑誌のおまけでつくような可愛過ぎるもので、それを見た蕾生は思わず目を逸らす。ふと永の方を見ると口を開けて笑いを堪えていた。
 
「へー」
 
 それを買い与えたであろう人物は、何でもないような顔をして鈴心が書いた文字をしげしげと見つめていた。
 
「その刀はなんで必要なんだ?」
 
 ノートをいじっても話題が進まないので、蕾生は余計なことは無視して永に続きを促した。
 
「うん、萱獅子刀の存在は『鵺を退治した』っていう事象の完結を表していてね」
 
「ジショウのカンケツ……?」
 
 今度は蕾生が首を傾げる番になった。その予想はしていたのだろう、永はゆっくりとした口調で説明する。
 
「噛み砕いて説明すると、『鵺を退治した』から萱獅子刀を持ってる──ということは、言い換えれば『萱獅子刀を持つ』ことは『鵺を退治した』ことを意味しているんだ」
 
「全然わからん」
 
 だがそれもむなしく、蕾生には何を言ってるのか理解できなかった。
 
「つまり、『鵺を退治した』という未来をその刀を持つことで引き寄せる──ってこと?」
 
 星弥が言い換えてみせると、永もにっこり笑って答える。
 
「当たり。そういうアイテムを僕らが持つことで鵺の弱体化を図ろうってわけ」
 
「う……ん?」
 
 蕾生が理解に苦しんでいると鈴心も助け舟を出す。
 
「呪術ではよくそういう考え方をします。私達も昔ある方にそう教わって、できるだけ慧心弓(けいしんきゅう)と萱獅子刀を揃えようとしてきました」
 
「ケイシン、何だって?」
 
 理解する前にもう新しい単語が出てきて、蕾生の頭はさらに混乱した。
 
「リン! いきなり新しいワードを出さないの!」
 
「申し訳ありません……」
 
 シュンとして縮こまる鈴心を他所に、星弥が興味津々で聞く。
 
「キュウっていうと、弓かな? もしかして鵺を射抜いた弓?」
 
「そうそう、さすがは銀騎(しらき)サマ! 慧心弓は英治親が持っていた弓で、鵺を射抜いたもの。こっちの方がわかりやすいかな?」
 
 永が蕾生に向き直り尋ねる。鵺を最初に仕留めたのは弓矢だったことを蕾生は思い出した。
 
「鵺を倒した武器ってことか? それがあったら倒せるってのはなんとなくわかる」
 
「そうそう。つまりね、鵺を倒した弓と鵺を退治した証の刀、手段と結果を手にすることで、もう鵺は滅ぶしかないよねっていう状況を作ろうってこと」
 
「ふうん?」
 
 どうしてそんなにややこしい言い方をするんだと思うが、自分以外はわかっていそうなので蕾生はわかったような振りを試みる。
 
「──なるほど」
 
 星弥は落ち着いて頷いていた。やはり本物の陰陽師の末裔と、オカルトを聞きかじっただけの一般人とは、天と地ほどの差がある。
 
「ようするに、その弓と刀でもって鵺と戦ったら勝てるってことだな?」
 
「シンプルに言えばそう」
 
「なら最初からそう言ってくれ」
 
 蕾生はなんだかどっと疲れた。その姿を見て永は苦笑いしていた。
 
(ただ)くんの言うことももっともだけど、武器の背景を知ってた方がそれを扱う時の力がより強くなると思うよ」
 
「そういうもんなのか?」
 
「うん」
 
 普通の女子高生に見える星弥が、時折見せる「普通じゃない」雰囲気。それを改めて蕾生は感じていた。