特に何もできないまま週末を迎えようとしている永と蕾生に急転直下の出来事が起きた。
なんとなく沈んだ雰囲気を引きずったまま登校すると、一年生の校舎中がどよめいていた。その騒ぎの原因はどうも星弥のクラスから発生しているらしい。
永と蕾生のクラスメート達が入れ替わり立ち替わりで隣のクラスを見に行っている。そのせいで廊下は興奮のるつぼになっていた。
二人は最初は静観していたが、教室に帰ってきたクラスメートの会話から星弥の名前が聞こえてきたので、とうとう廊下に出ることにした。
すると丁度その場にいる生徒達の興奮が最高潮に達したところだった。そこに集まった大勢の視線は、星弥とその隣で俯きながら居心地悪そうに歩く黒髪の少女へと注がれている。
「──」
「──」
永も蕾生もその姿を見て言葉を失った。星弥の隣を歩いていくのは間違いなく制服を着た鈴心だった。
呆けている二人に気づいた星弥が通り過ぎながら小声で二人に言う。
「放課後、クラブで」
永と蕾生はただ頷くことしか出来なかった。
星弥と鈴心が行ってしまうと、他の生徒達もざわつきながらも各々の教室に帰っていく。その波に従って永と蕾生も自教室へ戻った。
「ラ、ラララ、ララララ」
「落ち着け、永」
瞳の焦点が合っていない永をとりあえず席に座らせ、蕾生が宥める。
永は肩で深呼吸をした後、しどろもどろで動揺を口走った。
「ふー、ふー! え、何? 何がどうなってんの?」
「なんで鈴心が学校に来てんだ?」
「しかもウチの制服着てたよね? なんで? リンてまだ十三だよね?」
「全然わかんね……」
混乱したまま、気持ちの整理もつかないまま、朝のホームルームが始まってしまった。
その後の授業内容はもちろん頭に入るはずもなく、昼に食べた弁当の味もよくわからないまま、午後の授業も上の空で過ごし、やっと放課後を迎える頃には二人ともへとへとに疲れてしまっていた。
◆ ◆ ◆
「という訳で、転入生の御堂鈴心ちゃんです!」
コレタマ部の部室で星弥の努めて明るい声が響く。
その隣で佇む鈴心は今の所借りてきた猫のように、何も言わずに居心地が悪そうにしている。
あらためて超弩級の衝撃的光景を目の当たりにして、永は目を細めたまま蕾生の腕を引っ張った。
「ちょっとライくん、ほっぺつねってよ。僕は都合の良過ぎる夢を見てるんだ」
「夢じゃねえけど、お望みなら」
素直な蕾生は永の頬をつねると言うより伸ばすように引っ張る。
「──ひててて!」
「ライ、やめなさい!」
永の悲鳴に、鈴心がたまらず蕾生を叱る。
蕾生は少し白けた気持ちで指を離した。糸でも摘むようにそっと行ったつもりだが、永の頬はかなり赤くなっていた。
「やっぱりリンがいるうー、なんでー? なんでー?」
大袈裟ではなく腫れた頬を摩りながら、永は涙目で現状に疑問を呈す。ただし語彙を失っているのでいつもの様にはいかない。
「周防くんがショックのあまりバカになっちゃった……」
斜に構えた様な態度の永しか知らない星弥にはそれが至極新鮮に映ったようで、純粋に珍しいものを見る目をしている。
収集がつかなくなってきた空気を何故俺が、と思いながら蕾生は頭をガシガシ掻きながら星弥に説明を求めた。
「おい、銀騎、どう言う事だ」
「うん、わたしもよくわかんないんだけど──」
そうして星弥は数日前の自宅での出来事を語り始めた。
なんとなく沈んだ雰囲気を引きずったまま登校すると、一年生の校舎中がどよめいていた。その騒ぎの原因はどうも星弥のクラスから発生しているらしい。
永と蕾生のクラスメート達が入れ替わり立ち替わりで隣のクラスを見に行っている。そのせいで廊下は興奮のるつぼになっていた。
二人は最初は静観していたが、教室に帰ってきたクラスメートの会話から星弥の名前が聞こえてきたので、とうとう廊下に出ることにした。
すると丁度その場にいる生徒達の興奮が最高潮に達したところだった。そこに集まった大勢の視線は、星弥とその隣で俯きながら居心地悪そうに歩く黒髪の少女へと注がれている。
「──」
「──」
永も蕾生もその姿を見て言葉を失った。星弥の隣を歩いていくのは間違いなく制服を着た鈴心だった。
呆けている二人に気づいた星弥が通り過ぎながら小声で二人に言う。
「放課後、クラブで」
永と蕾生はただ頷くことしか出来なかった。
星弥と鈴心が行ってしまうと、他の生徒達もざわつきながらも各々の教室に帰っていく。その波に従って永と蕾生も自教室へ戻った。
「ラ、ラララ、ララララ」
「落ち着け、永」
瞳の焦点が合っていない永をとりあえず席に座らせ、蕾生が宥める。
永は肩で深呼吸をした後、しどろもどろで動揺を口走った。
「ふー、ふー! え、何? 何がどうなってんの?」
「なんで鈴心が学校に来てんだ?」
「しかもウチの制服着てたよね? なんで? リンてまだ十三だよね?」
「全然わかんね……」
混乱したまま、気持ちの整理もつかないまま、朝のホームルームが始まってしまった。
その後の授業内容はもちろん頭に入るはずもなく、昼に食べた弁当の味もよくわからないまま、午後の授業も上の空で過ごし、やっと放課後を迎える頃には二人ともへとへとに疲れてしまっていた。
◆ ◆ ◆
「という訳で、転入生の御堂鈴心ちゃんです!」
コレタマ部の部室で星弥の努めて明るい声が響く。
その隣で佇む鈴心は今の所借りてきた猫のように、何も言わずに居心地が悪そうにしている。
あらためて超弩級の衝撃的光景を目の当たりにして、永は目を細めたまま蕾生の腕を引っ張った。
「ちょっとライくん、ほっぺつねってよ。僕は都合の良過ぎる夢を見てるんだ」
「夢じゃねえけど、お望みなら」
素直な蕾生は永の頬をつねると言うより伸ばすように引っ張る。
「──ひててて!」
「ライ、やめなさい!」
永の悲鳴に、鈴心がたまらず蕾生を叱る。
蕾生は少し白けた気持ちで指を離した。糸でも摘むようにそっと行ったつもりだが、永の頬はかなり赤くなっていた。
「やっぱりリンがいるうー、なんでー? なんでー?」
大袈裟ではなく腫れた頬を摩りながら、永は涙目で現状に疑問を呈す。ただし語彙を失っているのでいつもの様にはいかない。
「周防くんがショックのあまりバカになっちゃった……」
斜に構えた様な態度の永しか知らない星弥にはそれが至極新鮮に映ったようで、純粋に珍しいものを見る目をしている。
収集がつかなくなってきた空気を何故俺が、と思いながら蕾生は頭をガシガシ掻きながら星弥に説明を求めた。
「おい、銀騎、どう言う事だ」
「うん、わたしもよくわかんないんだけど──」
そうして星弥は数日前の自宅での出来事を語り始めた。