一際明るくなった舞台の袖に、先程入口で会った職員の女性がマイクを持って立っていた。よく通る、滑らかな口調で彼女は客席に向かって話し始める。
 
「本日は私共銀騎(しらき)研究所の見学会にお越しいただきまして誠にありがとうございます。司会をつとめます佐藤と申します。まずは当研究所を代表して、副所長の銀騎(しらき)皓矢(こうや)が挨拶をさせていただきます」
 
 女性の言葉が終わると同時に、逆側の袖から背の高い、やはり白衣を着た年若い男性が登場する。
 彼は背筋をまっすぐ伸ばして歩き、ステージの中央で真正面を向いて深々とお辞儀をした。
 
「副所長なのに代表なのか?」
 
 蕾生(らいお)の疑問に、(はるか)が小声で答える。
 
「所長の銀騎博士は高齢だからね、最近はあまり人目に出ないらしいよ。ていうか、副所長めっちゃイケメンだな」
 
 永の言う通り、副所長の銀騎皓矢は高身長で足も長くモデルのようなプロポーションだ。
 蕾生の偏見にはなるが研究者なのに眼鏡もかけておらず、涼しげな目元をしている。髪型が少し野暮ったく伸ばされているが、ちょっと整えれば芸能人のように輝き出すかもしれない。

 この所感はあながち間違っていないようで、女性客達が途端にざわつき始めた。
 
「皆さんはじめまして、銀騎研究所の副所長をしております銀騎皓矢と申します。本当ならば私の祖父であります所長の銀騎(しらき)詮充郎(せんじゅうろう)が挨拶をするべきですが、今日は論文の締め切りが近く手がはなせないため登壇できない無礼をお許しください。さて、当研究所では──」
 
 朗々と語る銀騎皓矢の声は会場によく通り、彼の真摯な性格を物語る。会場の客席の誰もが、この好感しかない青年の声に聞き入っている。

 蕾生は銀騎研究所の沿革が説明され、続いて主な研究成果の説明が始まるところで睡魔との戦いを開始した。
 
「では、ここからプログラムの一番目、銀騎詮充郎博士のツチノコ研究に関する講話を引き続き銀騎皓矢先生にしていただきます」
 
 女性の声で蕾生ははっと目を開いた。顔を上げると、ステージの上では机と椅子が用意され、プロジェクターが設置されているところだった。
 
「ちょっとライくん、眠くなるのが早いんじゃないのぉ?」
 
「……悪い」
 
「ここからが面白いところなんだから、ちゃんと聞いてよね」
 
「あぁ……」
 
 からかうような口調の永に、自信なさげに蕾生は返事をする。どうせ自分は付き添いだしツチノコにも興味がないのだが、終わった後何も覚えていないと永は根に持つので、少し背筋を伸ばして座り直した。