「ね? 皓矢、貴方がしょっちゅう家に帰ってきてくれたら、星弥が男の子を連れて来たって私も安心できるのよ?」
「──わかりました。いっそうの努力をします」
苦笑して言う皓矢の反応を窺い見ても、特に変わった所はない。だが皓矢はポーカーフェイスが得意だし、星弥はこの兄の本心がわかるような場面に遭遇したことがなかった。
自分にとっては優しい兄であるし大好きなのだが、研究者として、または陰陽師としての皓矢がどんな風なのかは星弥にはわからなかった。
いや、今まで意識してわかろうとしてこなかったのかもしれない。そこに踏み入れることは祖父の不興を買うことになるからだ。
「鈴心も彼らに会ったのかい?」
話題が終わるかと思ったら、あろうことか皓矢は黙って食べるだけの鈴心にそれを振った。
星弥は心臓が飛び出る思いで鈴心の反応を見守る。
「……少し」
さすがに星弥より冷静な鈴心は、ただ一言呟いただけだった。
だが皓矢はそれでも食い下がる。
「どんな感じだった? 星弥にとっていい友人だったかな?」
「よくわかりません。星弥がいいなら良いのでは」
「そうだねえ。星弥が選んだ人なら、僕は応援したいな」
一刻も早くこの話題を終えるには自分がピエロになるしかないことを悟った星弥は顔を赤らめて少し高い声を上げる。
「もう、兄さん! そういうんじゃないってば!」
「ははは」
星弥の態度に騙されてくれたのか、皓矢は笑ってそれ以上は言わなかった。すぐに母親から別の話題が提供されるので久しぶりの団欒はつつがなく続くのであった。
◆ ◆ ◆
家の者が寝静まったのを確認した後、皓矢は自室でパソコンを立ち上げる。しばらくすると祖父からリモートの要請が届く。
それを承認すると暗い画面の中に険しい表情の銀騎詮充郎が映った。
「何かわかったか?」
「星弥と鈴心に接触した人物がいます。例の二人です」
「──確かか?」
皓矢が短く報告すると、詮充郎は片眉だけ動かしてしわがれた声を出した。
「監視カメラで確認しましたが、お祖父様のおっしゃる通りの容貌でしたので間違いないかと」
すると画面の向こうの詮充郎は顔を歪めて高らかに笑う。
「く、く、くははは! そうか! もう転生してきたか!!」
「先日の侵入者もおそらく彼らでしょう」
「結構! 相変わらず行動力が旺盛で大いに結構! つまらない見学会でも開いてみるものだ!」
「では、しばらくは様子見でよろしいのですか? 星弥も巻き込んでいるようなので心配で……」
皓矢の不安をよそに、詮充郎は吐き捨てるように言う。
「星弥が増えたところで、奴らの助けになるとは思えん。寧ろあの子には奴らの情報を引き出してもらおう」
「もしも星弥が人質にされたら……」
「そんなことはせんよ。奴らの弱点は何だと思う?」
「さあ……僕はあの時四歳でしたから……」
皓矢が控えめに首を傾げると、詮充郎は少し得意気に演説ぶって答える。
「奴らは年齢を重ねた経験がない。九百年という年月を経ていても、子どものままだということだ。甘いのだよ、基本的にな」
「そうですか──」
「ふ、ふ。まだ私に機会が残されていたとは! 今夜は久しぶりに良い気分だ。ケモノの王よ! 今度こそその身を頂く!」
すでに詮充郎は皓矢に話してはいない。自身のみで完結して笑い続けた後、通信は一方的に切れた。
今まで滔々と語られてきた、皓矢にとってはその夢物語が、まさか現実として目の前に現れるとは思わなかった。
だが、すでにそれは起きようとしている。星弥と鈴心は無事でいられるのだろうか。皓矢はそれだけが気がかりである。
「……」
傍らに置いた、自分と同い年の父親の姿に視線を移した後、皓矢は自らの掌に意識を集中させる。
青く、輝かしい羽を携えた鳥が皓矢の周りを飛び回った。
「──わかりました。いっそうの努力をします」
苦笑して言う皓矢の反応を窺い見ても、特に変わった所はない。だが皓矢はポーカーフェイスが得意だし、星弥はこの兄の本心がわかるような場面に遭遇したことがなかった。
自分にとっては優しい兄であるし大好きなのだが、研究者として、または陰陽師としての皓矢がどんな風なのかは星弥にはわからなかった。
いや、今まで意識してわかろうとしてこなかったのかもしれない。そこに踏み入れることは祖父の不興を買うことになるからだ。
「鈴心も彼らに会ったのかい?」
話題が終わるかと思ったら、あろうことか皓矢は黙って食べるだけの鈴心にそれを振った。
星弥は心臓が飛び出る思いで鈴心の反応を見守る。
「……少し」
さすがに星弥より冷静な鈴心は、ただ一言呟いただけだった。
だが皓矢はそれでも食い下がる。
「どんな感じだった? 星弥にとっていい友人だったかな?」
「よくわかりません。星弥がいいなら良いのでは」
「そうだねえ。星弥が選んだ人なら、僕は応援したいな」
一刻も早くこの話題を終えるには自分がピエロになるしかないことを悟った星弥は顔を赤らめて少し高い声を上げる。
「もう、兄さん! そういうんじゃないってば!」
「ははは」
星弥の態度に騙されてくれたのか、皓矢は笑ってそれ以上は言わなかった。すぐに母親から別の話題が提供されるので久しぶりの団欒はつつがなく続くのであった。
◆ ◆ ◆
家の者が寝静まったのを確認した後、皓矢は自室でパソコンを立ち上げる。しばらくすると祖父からリモートの要請が届く。
それを承認すると暗い画面の中に険しい表情の銀騎詮充郎が映った。
「何かわかったか?」
「星弥と鈴心に接触した人物がいます。例の二人です」
「──確かか?」
皓矢が短く報告すると、詮充郎は片眉だけ動かしてしわがれた声を出した。
「監視カメラで確認しましたが、お祖父様のおっしゃる通りの容貌でしたので間違いないかと」
すると画面の向こうの詮充郎は顔を歪めて高らかに笑う。
「く、く、くははは! そうか! もう転生してきたか!!」
「先日の侵入者もおそらく彼らでしょう」
「結構! 相変わらず行動力が旺盛で大いに結構! つまらない見学会でも開いてみるものだ!」
「では、しばらくは様子見でよろしいのですか? 星弥も巻き込んでいるようなので心配で……」
皓矢の不安をよそに、詮充郎は吐き捨てるように言う。
「星弥が増えたところで、奴らの助けになるとは思えん。寧ろあの子には奴らの情報を引き出してもらおう」
「もしも星弥が人質にされたら……」
「そんなことはせんよ。奴らの弱点は何だと思う?」
「さあ……僕はあの時四歳でしたから……」
皓矢が控えめに首を傾げると、詮充郎は少し得意気に演説ぶって答える。
「奴らは年齢を重ねた経験がない。九百年という年月を経ていても、子どものままだということだ。甘いのだよ、基本的にな」
「そうですか──」
「ふ、ふ。まだ私に機会が残されていたとは! 今夜は久しぶりに良い気分だ。ケモノの王よ! 今度こそその身を頂く!」
すでに詮充郎は皓矢に話してはいない。自身のみで完結して笑い続けた後、通信は一方的に切れた。
今まで滔々と語られてきた、皓矢にとってはその夢物語が、まさか現実として目の前に現れるとは思わなかった。
だが、すでにそれは起きようとしている。星弥と鈴心は無事でいられるのだろうか。皓矢はそれだけが気がかりである。
「……」
傍らに置いた、自分と同い年の父親の姿に視線を移した後、皓矢は自らの掌に意識を集中させる。
青く、輝かしい羽を携えた鳥が皓矢の周りを飛び回った。