「じゃあ、(ぬえ)の呪いがふりかかったとして、貴方達を殺すことができたなら、呪いはそこで終わるんじゃない?」

 (はるか)星弥(せいや)の問いに大きく頷きながら答えた。
 
「そうだね、それは考えたことがある。僕らは産まれて、鵺に呪い殺されて、また産まれるの繰り返し。君が聞きたいのは、何故それが繰り返されるのか、だね?」
 
「うん。もし鵺が貴方達を転生させ続けているなら、チャンスを与えてることにならない? 呪いって言うからには、必ず解く方法があるはずだよ」
 
 繰り返せば繰り返すだけこちらは要領を得ていく。そうして何度も鵺と対峙してくれば、何らかの抵抗や対策の術は必ず現れる。
 永がそうやってこれまでやってきた数々の事を理解して見せた星弥に、永は素直に賞賛の声を上げた。
 
「さすがに陰陽師の末裔は言うことが違うね。ろくにそっち方面の教育は受けてないんでしょ?」
 
「それでも、わたしの周りはそういう話題でいっぱいだから」
 
 困ったように笑う星弥を、永は初めて「理解者」として認識してもいいかも知れないと思った。少し安堵した所で蕾生(らいお)が口を開く。
 
「繰り返させることが、目的だとしたら?」
 
「──」
 
「永と鈴心(すずね)は九百年も苦しんでる。それこそが鵺の目的なんじゃないか? 俺たちを何度も殺すことが。──無間地獄に落とすことがさ」
 
 蕾生の言葉に永はあんぐりと口を開け、星弥も目を見開いて言葉を失っていた。
 
「なんだよ?」
 
「ライくん、どうしちゃったの! 今回はなんでそんなに冴えてるの? 無間地獄なんて難しい言葉まで使って!」
 
「はあ!? いつも間抜けてるみたいに言うな!」
 
 そうやってすぐに茶化す永の心遣いに照れながら、蕾生も慌てて悪態をつく。
 
「僕とリンもその結論にたどり着いたんだよ。鵺は僕らに永遠の苦しみを与えたいんじゃないかって」
 
「お、おう、そうなのか……」
 
「ライくん、えらい! 賢い!」
 
「……そこまで言われるとうざい」
 
「えー!」

 
  
 ──周防(すおう)(はるか)という男は本当に読めない、と星弥は思った。
 今大袈裟にはしゃいでいるのは蕾生が言い当てたからなのか、それともわざと騒ぎ立てて誤魔化しているのか。星弥には後者に見えるが考え過ぎなのだろうか。二人が意味もなくはしゃいでいる隙に星弥は考えを巡らせる。
 
 永遠に苦しめたいのなら、何故蕾生だけが記憶を引き継がないのか。
 
 こうして永が試行錯誤しつつ抗っているのに、鵺が同じことを繰り返すのは何故か。
 
 もし鵺が同じ事を繰り返すだけの存在なら、彼らを転生させているのは別の何かである可能性は?


 
 情報が少な過ぎてもはや自分の妄想まで入ってきてしまった時点で星弥は我に返った。ふと携帯電話の画面を見る。
 
「あれ!?」
 
「どうした?」
 
 星弥の声に反応して蕾生が振り返る。
 
「すずちゃんの既読がつかなくなっちゃった」
 
「あちゃー」
 
 同じ様に、それを聞いた永も残念そうな声を上げる。やはり全部上手く行くはずがない、という顔で。
 
「あのやろう、電源切りやがったな」
 
 蕾生が拳を握りしめて怒ると、部屋の外でトトトと軽めの足音が近づいてきた。
 
 次の瞬間、ドアが乱暴に開けられる。そこにいたのは焦った表情をした鈴心だった。
 
「すずちゃん!」
 
「リン!」
 
 鈴心はその姿を認めた途端に顔を明るくさせた星弥と永を無視して、注意深く部屋の外を確かめた後、音もなく部屋に入りドアを閉め鍵をかける。
 それから肩で大きく息をして三人──主に永を見据えた。
 
「……ハル様らしくない失敗ですね」