玄関を出たところで、(はるか)が空を仰ぎ後ろを向いて何かを見ていた。
 
「──」
 
「あっ、すず──」
 
 つられて蕾生(らいお)も同じ方向を見ると、二階の出窓、そのカーテンの奥からこちらを覗く鈴心の姿が見えた。蕾生は思わず大きな声で呼びかけようとしたが、永に無言で制された。
 そうしてにっこり笑って鈴心に永は手を振る。
 鈴心は慌ててカーテンを閉めてしまった。
 
「──帰ろ」
 
「いいのか?」
 
「うん、顔が見れたから」
 
 満足気に薄く笑って永は屋敷を後にする。その健気な態度に蕾生は胸が締めつけられる思いだった。

 

 
◆ ◆ ◆

 
「……」
 
 永が遠ざかった後、鈴心は暗い部屋の中で大きく息を吐く。
 
「来なくて良かったの?」
 
「──星弥(せいや)! ノックぐらいしてください!」
 
 あまり隙を見せない鈴心だが、星弥の存在に心底驚いたようで珍しく声を張った。
 
「ごめんね、ちょうど二人が帰ったから窓からでも見送ったらどうかと思って急いできたから」
 
「……」
 
「でもそれには及ばなかったね」
 
 星弥が笑いかけると、鈴心は罰が悪そうに両手を後ろで組んでボソリと言った。
 
「今日は何の話をしたんですか」
 
「えへへー、内緒!」
 
「…………」
 
 鈴心は得意の猛禽類睨みをきかせるが、何度もやっているので星弥にはあまり効き目がない。
 
「知りたかったら降りておいでよ、来週も来るから」
 
「まだ来ると?」
 
「すずちゃんが降りてくるまで諦めないと思うよ。あ、来週はお部屋の前で三人で踊ろうか?」
 
 言いながらコミカルな動きで星弥は鈴心を挑発する。だが鈴心も頑なな態度を崩さなかった。
 
「そんなことしたら絶対開けませんから」
 
 拒絶しているように見えて鈴心の言葉には微な希望が読み取れる。きっと意識してのことではないのだろう。その小さな小さな穴を穿つことができるか、彼らのお手並みを拝見しようと星弥はまた来週を心待ちにするのだった。