永は星弥の方を見て切り出した。
「せっかくだから、銀騎のことについて知識の擦り合わせをしたいな」
「わたしと?」
「そう。考えてみれば、銀騎のごく身内に話を聞けるなんて今回が初めてだからね」
「わたしは兄さんと違って、そんなに詳しくはないけど……」
誤魔化してお茶を濁そうとしているととった永ははっきりと星弥に挑戦状を叩きつける。
「ふうん。でも、銀騎が元は陰陽師の家系だってことは当然わかってるよね?」
「それは、まあ」
「は? 俺は初めて聞いたぞ」
蕾生にとっては突然の爆弾投下にも等しい新事実だった。驚き過ぎて声が上ずってしまった程だ。
「そうだね、銀騎のこっちの一面は完全に秘匿されてるからね」
「銀騎詮充郎って化学者なんだよな? 陰陽師って言ったら真逆だろ」
あんなに技術の粋を集めた化学研究所と非現実的なオカルト要素が同居しているだなんて、蕾生でなくても夢にも思わないだろう。
「たしか、銀騎のじいさんにはそういう力はないって聞いたなあ。でも、孫の皓矢は違うんじゃない?」
「え!?」
永の言葉に蕾生は更に驚いた。説明会の時の銀騎皓矢の化学者然とした姿を思い出す。どう見てもあの姿からは陰陽師だとは露程も思えない。
「えっと、まず前提としてだけど、うちのそっち関係については後継者になる人にしか伝えられないの。わたしもお母様も知ってることはほとんどないよ。
それでも、兄さんの力は……まあ、多分、修行したらしいからそれなりにあるんだとは思う。でもわたしは見たことがない」
星弥の説明を聞いても、蕾生の心の中は動揺し続けていた。自分達だけでなく、銀騎にも現実離れした秘密があったとは。
急にここから先の道には暗くおどろおどろしいものが渦巻いている気がして背筋に悪寒が走った。
「君には?」
しかし、永は蕾生の様子に構うことなく冷静に星弥に詰問する。
「わたし? わからない……。私が生まれた時にはすでに兄さんは修行を始めてたから、わたしにそういう話はきたことがないし、自覚もないよ」
「ふうん……未知数ってことか」
「ううん、きっとわたしにはそんな力ないよ。蚊帳の外っていうか、普通の子として生きてきたもの」
それを聞いて蕾生は少しほっとする。星弥すらも不思議な力があるなんてことになったら、さすがに蕾生の想像の範疇を越える。
「──うん。ところで、銀騎のじいさんの息子、君の父親だけど亡くなったのはいつ?」
だが永は少し疑っているようだった。けれどそこに深入りすることはせず、軽く頷いた後話題を変えた。
「お父様が亡くなったのはわたしが産まれる直前。確か、三十六歳、くらいだったかな? それより前に何か大怪我をして、そのせいで──」
「あの写真の人だよね? あれは若い頃の?」
戸棚の中に飾られた若い男性の写真立てを指して永が言うと、星弥は素直に頷いた。
「うんそう。まだ二十代だと思うよ。その頃大怪我をしたから、あの写真以降のものがないんだって」
「へえ……」
「その親父さんはどうだったんだ? そういう陰陽師的な力……」
蕾生が恐る恐る聞くと、永は少し逡巡した後答えた。
「彼は──まあ、力はあったんじゃない? 彼についてはよく知らないんだ」
「わたしも知らない。兄さんがどれくらい強い術者かも知らないくらいだし」
すでに故人となっている父親の話がどう関係しているのか、蕾生にはよくわからなかった。
「せっかくだから、銀騎のことについて知識の擦り合わせをしたいな」
「わたしと?」
「そう。考えてみれば、銀騎のごく身内に話を聞けるなんて今回が初めてだからね」
「わたしは兄さんと違って、そんなに詳しくはないけど……」
誤魔化してお茶を濁そうとしているととった永ははっきりと星弥に挑戦状を叩きつける。
「ふうん。でも、銀騎が元は陰陽師の家系だってことは当然わかってるよね?」
「それは、まあ」
「は? 俺は初めて聞いたぞ」
蕾生にとっては突然の爆弾投下にも等しい新事実だった。驚き過ぎて声が上ずってしまった程だ。
「そうだね、銀騎のこっちの一面は完全に秘匿されてるからね」
「銀騎詮充郎って化学者なんだよな? 陰陽師って言ったら真逆だろ」
あんなに技術の粋を集めた化学研究所と非現実的なオカルト要素が同居しているだなんて、蕾生でなくても夢にも思わないだろう。
「たしか、銀騎のじいさんにはそういう力はないって聞いたなあ。でも、孫の皓矢は違うんじゃない?」
「え!?」
永の言葉に蕾生は更に驚いた。説明会の時の銀騎皓矢の化学者然とした姿を思い出す。どう見てもあの姿からは陰陽師だとは露程も思えない。
「えっと、まず前提としてだけど、うちのそっち関係については後継者になる人にしか伝えられないの。わたしもお母様も知ってることはほとんどないよ。
それでも、兄さんの力は……まあ、多分、修行したらしいからそれなりにあるんだとは思う。でもわたしは見たことがない」
星弥の説明を聞いても、蕾生の心の中は動揺し続けていた。自分達だけでなく、銀騎にも現実離れした秘密があったとは。
急にここから先の道には暗くおどろおどろしいものが渦巻いている気がして背筋に悪寒が走った。
「君には?」
しかし、永は蕾生の様子に構うことなく冷静に星弥に詰問する。
「わたし? わからない……。私が生まれた時にはすでに兄さんは修行を始めてたから、わたしにそういう話はきたことがないし、自覚もないよ」
「ふうん……未知数ってことか」
「ううん、きっとわたしにはそんな力ないよ。蚊帳の外っていうか、普通の子として生きてきたもの」
それを聞いて蕾生は少しほっとする。星弥すらも不思議な力があるなんてことになったら、さすがに蕾生の想像の範疇を越える。
「──うん。ところで、銀騎のじいさんの息子、君の父親だけど亡くなったのはいつ?」
だが永は少し疑っているようだった。けれどそこに深入りすることはせず、軽く頷いた後話題を変えた。
「お父様が亡くなったのはわたしが産まれる直前。確か、三十六歳、くらいだったかな? それより前に何か大怪我をして、そのせいで──」
「あの写真の人だよね? あれは若い頃の?」
戸棚の中に飾られた若い男性の写真立てを指して永が言うと、星弥は素直に頷いた。
「うんそう。まだ二十代だと思うよ。その頃大怪我をしたから、あの写真以降のものがないんだって」
「へえ……」
「その親父さんはどうだったんだ? そういう陰陽師的な力……」
蕾生が恐る恐る聞くと、永は少し逡巡した後答えた。
「彼は──まあ、力はあったんじゃない? 彼についてはよく知らないんだ」
「わたしも知らない。兄さんがどれくらい強い術者かも知らないくらいだし」
すでに故人となっている父親の話がどう関係しているのか、蕾生にはよくわからなかった。