少しずつ雨模様が増えてきた週末。それでも今日はなんとか降らずにすんでいる。(はるか)蕾生(らいお)は傘も持たずに軽装で銀騎(しらき)邸に再びやってきた。
 
「いらっしゃい」
 
 前回と同じく星弥(せいや)に迎えられた二人は軽く挨拶を交わす。
 
「どうも、コンニチハ」
 
「おす」
 
「どうぞ、入って。今日はお勉強会だから」
 
「勉強?」
 
 蕾生が聞き返すと、星弥は悪戯っぽく笑って言った。
 
「中間テストが近いでしょ? 入試成績一位の周防(すおう)くんが教えてくれるってお母様には言ってあるの」
 
「なるほど、いい口実だ」
 
 永は満足気に頷く。気持ち上から目線なのは、星弥と軍師的な立ち位置を争っているからだ。
 
「入学式で新入生挨拶してたのをお母様も覚えてるから、あっさり許してくれたよ」
 
「手ぶらで来ちまったけど……」
 
 蕾生が少し困ってみせると、永はあっけらかんとしていた。
 
「まあ、僕は教科書いらないし。ライくんもそういうキャラじゃないからいいんでない?」
 
「そっか、前もって言えば良かったね。うっかりしちゃった」
 
 星弥はそう言いつつも全く悪びれていない。学校での「良い子」を演じるのを二人の前では辞めたようだった。
 
「永の理屈で通るなら別にいいけど」
 
 口先でなんとでも切り抜けられる永と違って、蕾生は多少不貞腐れながら呟いた。それを見て星弥はクスリと笑った。
 
(ただ)くんて、意外と慎重なんだね」
 
「そうなの、意外と理屈っぽいのよ、ライくんは」
 
「意外とね」
 
「そう、意外とね」
 
 永と星弥に揃っていじられて、蕾生もますます不機嫌になる。
 
「お前らみたいに口が上手くないからな、俺は」
 
「えー、周防くんと一緒にされたあ、不満だあ」
 
「僕も納得できないなー」
 
 この二人は仲良くする気は全くないらしいが、阿吽の呼吸ができている。同族嫌悪だな、と蕾生は思ったが言わなかった。多分三倍になって返ってくるだろうから。

 
  
 先週と同じ応接室に通されると、すでに一通りの来客用のお茶などは運び込まれていた。今日は家政婦も全く顔を見せなかった。
 
「そんな訳で、この部屋にはお母様も家政婦さんも入ってこないから安心してね」
 
「オーケー、オーケー」
 
 永はすっかり我が物顔でソファにどっかりと腰掛けた。
 
鈴心(すずね)はどうしてる?」
 
 蕾生が聞くと、星弥は少し言いにくそうに答える。永も前のめりで注視した。
 
「うん……一応二人が今日来ることは話してあるんだけど、部屋からは出てきてくれなくて」
 
「なんか言ってた?」
 
「えーっと、睨まれた」
 
「ハハッ、リンらしいや」
 
 永は思わず苦笑してしまったが、蕾生は鈴心の態度にはまだ納得がいっていない。
 
「どうする? 部屋から引きずり出すか?」
 
「乱暴だな、ライくんは! だからモテないんだよ」
 
「無理強いは、まだちょっと早いかな……」
 
 星弥も困りながら笑った。