今日の(はるか)は朝から忙しく動いていた。放課後までに銀騎(しらき)星弥(せいや)と約束したアンケートの回答をクラス全員分揃えるためだ。

 休み時間の度にまだ提出していないクラスメイトに話しかけていく。クラス全員の名前を覚えていない蕾生(らいお)と違って永は流れるように声をかけていく。

 まだ教室内は人間関係がぎこちないので学級委員に話しかけられて無下にするような者はいない。永は立候補で学級委員になったので「やる気あります」という雰囲気を全面に出してクラスの覇権をとろうとしている。

 高校では最後まで本性がバレないといいと蕾生は思うが、多分無理だとも思っている。よくやるなあと感心しながら永を眺める一日が終わろうとしていた。
 
「ブツは揃ったぜ」
 
 全員分のプリントの束を蕾生の目の前でビラビラとさせながら、少し低めの声で永は自慢げに言った。
 
「そうか、ご苦労さん」
 
「──ノリが悪いな!」
 
 悪いもなにもどう乗ってやればいいのか、アニメもドラマもあまり見ない蕾生はよくわからない。
 
「まあいいや、漫才がしたいわけじゃないし。昨日の打ち合わせ覚えてる?」
 
 永の問いかけに、蕾生は昨日帰り道で話したことを思い出しながら口にする。
 
「ええと、まずそれ持って話しかける、お前がポケットから銀騎(しらき)研究所のパンフレットを落とす、研究所の話で盛り上がる、家に招待される──大丈夫か、これ?」
 
 口で言うのは簡単だが、そんなにトントン拍子に行くことがあるだろうか。蕾生は改めて不安になった。
 
「大丈夫も何も、下手な小細工せずに真っ向勝負だって言ったのライくんでしょ」
 
「まあ、そうだけど」
 
「僕の調べでは、銀騎(しらき)星弥(せいや)はいい人過ぎて頼まれたら断れない性格なんだ。多少強引でもやるしかない!大丈夫、覚悟は決めたから昨日みたいな下手は打たないよ」
 
 その性格を利用して土下座でもするんだろうか、と蕾生は想像して、見たいような見たくないような複雑な気分になったが、永は鼻息荒くとてもやる気になっているので、なんだかんだをひっくるめて二言だけ言う。
 
「わかった。がんばれ」
 
「そこは頑張ろうでしょ!」
 永は蕾生の腕を掴んで教室を出た。