蕾生の叫びが空しく響いた後の部屋には重い空気感が漂っている。
星弥は永と蕾生を交互に見るけれど、どう声をかけていいのかさっぱりわからなかった。
かたや肩を落として力無く座っている者と、かたや立ち尽くしたまま世界を滅ぼしかねない程怒っている者。どちらの気持ちを思っても、何を言っても軽々しいものになりそうで。
仕方なく星弥はすっかり存在を忘れていたお茶のセットに手を伸ばし、淹れはじめた。
「えっと……もう少し事情を聞いても?」
温かく湯気の出た紅茶を携えてテーブルにそれぞれ並べた後、そう切り出した星弥に蕾生は少しバツが悪そうに謝った。
「ああ、悪かった。騒いじまって」
「ううん、いいの。それに、すずちゃんの方が一方的で悪かったよう……な?」
星弥の言葉に蕾生は少し驚いた。今までの態度からすれば鈴心側に立って言いそうなものなのに、こちら側にも一定の理解を示してくれるとは。
「いや、悪いとかじゃないと思う」
「そうなの?」
ならば、と蕾生は星弥にあらましを教えてみてもいいかもしれないと思った。今、永はその判断ができないから。
「俺達三人は、鵺の呪いってやつでずっと昔から転生を繰り返しているらしい」
「らしいって?」
星弥の言葉尻を捉えた質問は的確で、もともと説明することが苦手な蕾生は無意識に頭を掻いた。
「俺は呪いが一番濃いみたいで、記憶がねえんだ。だから、俺も知ったのは最近で」
「そう……」
「永の方はずっと──最初に呪いを受けた時からの記憶があるし、鈴心もそうらしい」
「すずちゃんも?」
言いながら、自分がわかっている情報を整理しようとするが整理するほどの引き出しがなくて、蕾生は情けなくなってきた。
「永と鈴心は鵺の呪いを解こうとして転生を繰り返してる。俺は覚えてないから過去に何をしてきたのかわからねえ」
「そうなんだ……」
「鈴心は昔からリンって呼ばれてて、毎回俺達のところに十五ぐらいでやってきて、呪いを解くために動いてたっぽい……」
「ああ、それで『なんで若いんだ』って言ってたんだね? すずちゃんはまだ十三歳だもん」
「まあ、そうだ。──で、えーっと……あー……」
引き出しの中身が尽きた。頭の中のタンスは蹴っ飛ばしてもひっくり返しても、もう何も出てこない。
「おい、永! いつまで落ち込んでんだ! 俺じゃ、これ以上はわかんねえぞ!!」
蕾生が癇癪をぶつけると、それまで落ち込んでいたはずの永は肩を震わせて笑いをこらえていた。
「はあー、ライくんの理解度がこんなもんだとはねえ……」
「お前がほとんど教えてくんねえからだろ!」
蕾生が喚くと、永は顔を上げて見せる。そこにはいつも通りの人を食ったような表情の永がいた。
永はうんと伸びをして座り直し、すっきりした顔で笑った。
「──よし! 落ち込むのやめ! ありがと、ライくんが場を繋いでくれたおかげで冷静になれた」
「お、おう……。で、これからどうするんだ?」
「リンのことは絶対にあきらめない。あいつは何かを隠してる」
永はブレていなかった。それでこそだ、と蕾生も安心した。
「──だろうな」
まだこれからだ。二人の間にはまだ諦めるという選択肢はない。希望はあると信じて頷き合った。
星弥は永と蕾生を交互に見るけれど、どう声をかけていいのかさっぱりわからなかった。
かたや肩を落として力無く座っている者と、かたや立ち尽くしたまま世界を滅ぼしかねない程怒っている者。どちらの気持ちを思っても、何を言っても軽々しいものになりそうで。
仕方なく星弥はすっかり存在を忘れていたお茶のセットに手を伸ばし、淹れはじめた。
「えっと……もう少し事情を聞いても?」
温かく湯気の出た紅茶を携えてテーブルにそれぞれ並べた後、そう切り出した星弥に蕾生は少しバツが悪そうに謝った。
「ああ、悪かった。騒いじまって」
「ううん、いいの。それに、すずちゃんの方が一方的で悪かったよう……な?」
星弥の言葉に蕾生は少し驚いた。今までの態度からすれば鈴心側に立って言いそうなものなのに、こちら側にも一定の理解を示してくれるとは。
「いや、悪いとかじゃないと思う」
「そうなの?」
ならば、と蕾生は星弥にあらましを教えてみてもいいかもしれないと思った。今、永はその判断ができないから。
「俺達三人は、鵺の呪いってやつでずっと昔から転生を繰り返しているらしい」
「らしいって?」
星弥の言葉尻を捉えた質問は的確で、もともと説明することが苦手な蕾生は無意識に頭を掻いた。
「俺は呪いが一番濃いみたいで、記憶がねえんだ。だから、俺も知ったのは最近で」
「そう……」
「永の方はずっと──最初に呪いを受けた時からの記憶があるし、鈴心もそうらしい」
「すずちゃんも?」
言いながら、自分がわかっている情報を整理しようとするが整理するほどの引き出しがなくて、蕾生は情けなくなってきた。
「永と鈴心は鵺の呪いを解こうとして転生を繰り返してる。俺は覚えてないから過去に何をしてきたのかわからねえ」
「そうなんだ……」
「鈴心は昔からリンって呼ばれてて、毎回俺達のところに十五ぐらいでやってきて、呪いを解くために動いてたっぽい……」
「ああ、それで『なんで若いんだ』って言ってたんだね? すずちゃんはまだ十三歳だもん」
「まあ、そうだ。──で、えーっと……あー……」
引き出しの中身が尽きた。頭の中のタンスは蹴っ飛ばしてもひっくり返しても、もう何も出てこない。
「おい、永! いつまで落ち込んでんだ! 俺じゃ、これ以上はわかんねえぞ!!」
蕾生が癇癪をぶつけると、それまで落ち込んでいたはずの永は肩を震わせて笑いをこらえていた。
「はあー、ライくんの理解度がこんなもんだとはねえ……」
「お前がほとんど教えてくんねえからだろ!」
蕾生が喚くと、永は顔を上げて見せる。そこにはいつも通りの人を食ったような表情の永がいた。
永はうんと伸びをして座り直し、すっきりした顔で笑った。
「──よし! 落ち込むのやめ! ありがと、ライくんが場を繋いでくれたおかげで冷静になれた」
「お、おう……。で、これからどうするんだ?」
「リンのことは絶対にあきらめない。あいつは何かを隠してる」
永はブレていなかった。それでこそだ、と蕾生も安心した。
「──だろうな」
まだこれからだ。二人の間にはまだ諦めるという選択肢はない。希望はあると信じて頷き合った。