昼休み、弁当を食べた後、いつもなら教室でダラダラ過ごすのだが、(はるか)が珍しく中庭に行こうと言い出した。

 今日は曇りだから人が少ないはずだと言うので、大事な話をするんだろうと察した蕾生(らいお)は黙って永についていった。

 中庭中央の桜の木の下で、永は振り返って安いドラマのような口調で切り出した。
 
「とりあえず、ミッションそのイチ」
 
 わざとおどけて話すのは蕾生に負担をかけたくないからだろうと、当の蕾生にもわかっている。
 
「リン、ってやつのことだろ?」
 
 だから蕾生も前置きなしに、昨日の出来事で一番鮮烈なものの名前を出した。
 
「そうリン!なんであいつ、あんなところに居たんだろ?」
 
「アイツがいると思ったから銀騎(しらき)研究所に行ったんじゃないのか?」
 
 あの場所に向かう永の足取りは迷いがなかった。だから蕾生は昨日の目的は当然彼女のことだろうと思っていた。
 
「──と言うより、ほんとは別のことを確かめたかったんだよね」
 
「何だよそれ?」
 
「んーと、なんていうか……、どうしよっかな……」
 
 永は急にしどろもどろになって目を泳がせた。その態度に蕾生は冷ややかな視線を送る。
 
「わーかった、話す!えっとね、ほんとはあの研究所に刀があると思ったんだよね」
 
「刀?」
 
(ぬえ)を討伐した時に褒美として帝から賜った宝刀なんだけど、銀騎側に取られちゃってて」
 
 永は努めて明るく、舌まで出して軽い調子で話す。その気遣いは何を言ってもやめることはないだろう。蕾生はそう諦めて話を進めた。
 
「いつ?」
 
「うーん、いつからだったかなあ。結構前から。直近だと二、三回くらい前の転生の時かなあ」
 
「そんなに前から銀騎研究所と知り合いなのか」
 
 永が銀騎研究所を憎んでいることは伝わっていた。それはおそらく前回の転生で何かがあったからだろう。蕾生はそれくらいに考えていたのだが、もっと根の深い問題だということに驚いた。
 
「なんかいろいろややこしい因縁が出来上がってるんだよね、あそことは。元は──」
 言いかけて永は少し止まる。
 
「ま、その辺はちょっと置いといて、リンのことを先に説明してもいい?」
「あ、ああ」
 
 続きが気になるけれど、永は話さないと決めたことは絶対に曲げないし、経験則に基く順序があるんだろうと思って蕾生は渋々承知した。