部屋の中が静まりかえる。欧風のソファに暖炉まであり、床には毛の長い絨毯が敷かれている。骨董品と美術品で整えられたその部屋は、応接室のお手本のような完璧さだった。
 
「ねえ、ライくん。気づいた? 門に付いてるのチャイムだけで、外からの訪問者が名乗ることができなかった」
 
「うん?」
 
 (はるか)の言わんとしてることがわからなくて、蕾生(らいお)は首を傾げる。
 
「きっとわからない所に監視カメラがついてて、家人が知ってる人しか入れないんだろうね」
 
「ああ……?」
 
「なんか、隠れて住んでるみたい」
 
 その言葉にはたっぷりの侮蔑がこめられていた。表面上はおどけて見せていても、永は敵地に来ているという緊張感を忘れていない。その様子を見て、蕾生も気を引き締めた。
 
「なあ、永、ここんちの親父さんって──」
 
「だいぶ前に亡くなってる」
 
「そっか……」
 
 星弥(せいや)との会話の中に一度も父親の話が出なかったので、蕾生が一応確認すると永はやはり知っていた。だがそれ以上は今の永には聞ける雰囲気ではなかった。

 ふと戸棚の中に小さな写真立てがあるのが見える。銀騎(しらき)皓矢(こうや)に似た男性が少し儚げに微笑んでいた。

 
  
 コンコンと応接室の扉を叩く音がして、蕾生は思考と視線を現実に戻す。星弥が遠慮がちに扉を開けて部屋に入ってきた。
 
「お待たせ」
 
 そしてその後ろにもう一人分の人影が続く。小柄な少女だった。長い黒髪を左右にレースのリボンで結い、控えめにレースがあしらわれた白いブラウスにピンク色のフレアースカートを纏っている。俯きながら星弥に続いて部屋に入ってきた。
 
「さ、鈴心(すずね)ちゃん、ご挨拶して?」
 
「み、御堂(みどう)鈴心(すずね)です。きょ、今日はようこそお越しくださいまし──」
 
 一礼の後顔を上げた少女を見て、永も蕾生も絶句した。
 
「──」
 
 二人の目の前にいるのは、今最大の目的である人物。リンだった。