蕾生はまずその記事に載っている研究者らしき人物の写真を見た。
四十三歳と書いてあるけれど、その人物は年齢よりもずいぶんとお爺さんに見えて、研究者って老けるんだなと少し驚いた。
「あー残念だなあ、こんな大事件が僕らが生まれる前に起きてるなんて。歴史の証人になりたかったのに」
「そうかよ」
蕾生は永への応対に少し疲れて窓の外に視線を移す。
永は昔からオカルトめいた話が好きで、心霊スポットや未確認飛行物体などの情報を幾度となく蕾生に講釈している。
最近のお気に入りは未確認生物らしいのだが、蕾生にはイマイチ興味がわかない。ただ、この話題をする時の永はとても楽しそうなので付き合って聞いている。おかげで蕾生もこういった不思議な話にはかなり詳しくなった。
「ライくん、何見て──。あ、銀騎研究所だね?」
窓の外には学校の隣の森林公園を挟んで白い建物の一部が見えている。蕾生は特に意識しておらず、言われて初めてその景色を認識した。
「ツチノコを発見して、全く新しい生態系を確立させたあの銀騎博士がそこの研究所にいるだなんてワクワクするよねえ」
「あのビル、研究所なのか」
「そうだよ。建ったのは最近なのに、ライくんは知らなかったの?」
「興味ねえもん」
欠伸混じりに言う蕾生に、永は大げさな身振りで言った。
「非地元民め!」
「お前が知りすぎなんだろ」
頭を掻きながら、蕾生はすでにこの話題から興味をなくしている。それでも永は構わずに続けた。
「噂では、あの研究所で新しい未確認生物が発見されて、着々と第二のツチノコ的なものの発表の準備をしてるって」
何かとても重要な情報を暴露するかのような、ワルイ雰囲気を込めて永はふざける。
「お前はほんと好きだな。ユーマ?っていうやつ」
あきれながら蕾生が言うと、永は急に真面目な顔でそれを訂正する。
「違うよ、ライくん。UMAなんてオカルトじゃない、これは、れっきとした生物学なんだよ」
永はゆっくりと言い聞かせるように語りかけるが、最後にはいつもこう言うので、蕾生は話半分に聞くことにしている。
「見つかるといいな」
「心がこもってない!」
普段は物静かで飄々としている永だが、未確認生物のことになると熱弁を振うようになる。こうなると適当に相槌を打ちながら、落ち着くのを待つしかない。
「とにかく銀騎研究所っていえばさ……」
そこからたっぷり三分間、蕾生は頷きながら思考を停止していた。我に返ったのは、永が何かのプリントを机に広げ始めてからだった。
「で、来月の連休あるでしょ? 一般公開するんだって」
「……何を?」
「だから、銀騎研究所が市民向けに見学会を開くから申し込んだんだよね。──二人分!」
ニヤリとピースサインを掲げる永の言葉に蕾生はやられたと思った。
「あー、まあ、そうなるか」
「当然でしょ」
そう言って笑顔で背中を叩かれれば、蕾生は断れない。というか、断る選択肢はない。
「まあ、別にいいけどよ……」
永が行くところには必ずついていくのが蕾生にとっては当たり前のことだった。
四十三歳と書いてあるけれど、その人物は年齢よりもずいぶんとお爺さんに見えて、研究者って老けるんだなと少し驚いた。
「あー残念だなあ、こんな大事件が僕らが生まれる前に起きてるなんて。歴史の証人になりたかったのに」
「そうかよ」
蕾生は永への応対に少し疲れて窓の外に視線を移す。
永は昔からオカルトめいた話が好きで、心霊スポットや未確認飛行物体などの情報を幾度となく蕾生に講釈している。
最近のお気に入りは未確認生物らしいのだが、蕾生にはイマイチ興味がわかない。ただ、この話題をする時の永はとても楽しそうなので付き合って聞いている。おかげで蕾生もこういった不思議な話にはかなり詳しくなった。
「ライくん、何見て──。あ、銀騎研究所だね?」
窓の外には学校の隣の森林公園を挟んで白い建物の一部が見えている。蕾生は特に意識しておらず、言われて初めてその景色を認識した。
「ツチノコを発見して、全く新しい生態系を確立させたあの銀騎博士がそこの研究所にいるだなんてワクワクするよねえ」
「あのビル、研究所なのか」
「そうだよ。建ったのは最近なのに、ライくんは知らなかったの?」
「興味ねえもん」
欠伸混じりに言う蕾生に、永は大げさな身振りで言った。
「非地元民め!」
「お前が知りすぎなんだろ」
頭を掻きながら、蕾生はすでにこの話題から興味をなくしている。それでも永は構わずに続けた。
「噂では、あの研究所で新しい未確認生物が発見されて、着々と第二のツチノコ的なものの発表の準備をしてるって」
何かとても重要な情報を暴露するかのような、ワルイ雰囲気を込めて永はふざける。
「お前はほんと好きだな。ユーマ?っていうやつ」
あきれながら蕾生が言うと、永は急に真面目な顔でそれを訂正する。
「違うよ、ライくん。UMAなんてオカルトじゃない、これは、れっきとした生物学なんだよ」
永はゆっくりと言い聞かせるように語りかけるが、最後にはいつもこう言うので、蕾生は話半分に聞くことにしている。
「見つかるといいな」
「心がこもってない!」
普段は物静かで飄々としている永だが、未確認生物のことになると熱弁を振うようになる。こうなると適当に相槌を打ちながら、落ち着くのを待つしかない。
「とにかく銀騎研究所っていえばさ……」
そこからたっぷり三分間、蕾生は頷きながら思考を停止していた。我に返ったのは、永が何かのプリントを机に広げ始めてからだった。
「で、来月の連休あるでしょ? 一般公開するんだって」
「……何を?」
「だから、銀騎研究所が市民向けに見学会を開くから申し込んだんだよね。──二人分!」
ニヤリとピースサインを掲げる永の言葉に蕾生はやられたと思った。
「あー、まあ、そうなるか」
「当然でしょ」
そう言って笑顔で背中を叩かれれば、蕾生は断れない。というか、断る選択肢はない。
「まあ、別にいいけどよ……」
永が行くところには必ずついていくのが蕾生にとっては当たり前のことだった。