「鵺を倒したのに呪われたのか?」
蕾生の問いに、永は少し首を傾げた後、やや左右に振って息を大きく吐く。
そうしてから、蕾生を見つめてゆっくりと言った。
「──鵺を殺したから、僕らは呪われたんだ」
その瞳には深い怒りを宿していた。
「鵺は帝を呪い殺したかったんだろう。だけど、その途中で僕らが奴を仕留めてしまった。だから恨まれた」
そう語る永の表情は、蕾生が初めて見るものだった。
今まで他人の事は適当に受け流して飄々としていたのに、こんなに明確な憎しみ、こだわりとも言えるような感情を向ける対象が彼にあったとは。
「一番濃い呪いってのはどういうやつなんだ?」
突然の告白、思い出せない運命。それから、永の中にあった蕾生の知らない感情。
蕾生の頭は疑問ばかりで、結局同じようなことを何度も聞いてしまう。
すると永は突然表情を強張らせた。
「……やっぱり、そこ、気になるよね」
「そりゃ、そうだろ。具体的にはどんな呪いを俺達はかけられたんだ?」
蕾生が食い下がると、永はうーんと唸ってかなり迷った仕草をした後、ヘラリと笑って言った。
「ごめん、まだそれは言えないや」
「ハァ!? お前、ここまで言っといてふざけんなよ!」
急にいつもの人を喰ったような態度の永に、蕾生はつい声を荒らげた。けれどそれでも永は首を振ってなだめるように言う。
「徐々に! 徐々にライくんが僕らの状況に慣れてから言うから」
「なんだよ、それ。そりゃ、俺はバカだから一気に言われても理解できないかもしれないけど──」
蕾生は率直な気持ちを、真っ直ぐに永を見て言った。
「お前が俺の分まで何かを背負ってるなら、一緒に持ちたいだろ……」
「ライ……」
永が知らないところでずっと何かを抱えて、悩んでいた。
それを考えるだけでも蕾生は胸が苦しくなる。きっと永にもそれは伝わっているんだろう。
けれど永は唇を噛み締めて、あえて明るく言う。
「──でもダメでーす! 今日はここまででーす!」
「永!!」
「……あんまりこういう言い方はしたくないんだけど、僕は鵺の呪いを解くために三十三回同じことを繰り返してきた」
「──」
「わかる? 僕はね、三十三回も失敗してるんだよ」
具体的に出された数字の重さに蕾生は絶句した。
「その僕が、今は話すべきじゃないと思ってるんだ。どうか尊重して欲しい」
蕾生には計り知れない経験の差があると、永はそう言っていた。
「今日、研究所に君を連れてきたことはかなりの賭けだった。一歩間違えれば即ゲームオーバーの恐れもあったんだ」
「そう……なのか?」
「うん、だけど僕らはその賭けに勝った。リンのことは想定外だったけど、賭けに勝ったと思ったから今こうして君に話してる」
「──わかった」
蕾生は納得するしかなかった。他でもない、永がこう言っているのだから。
「ありがとう」
「ひとつ、確認するぞ」
「うん?」
蕾生は再び真っ直ぐに永を見た。
「俺達はこれから、鵺の呪いを解くために行動する。そうだな?」
俺達、の部分に力を入れて言うと、永は満足そうに微笑んだ。
「うん、上出来だ」
「今日みたいに、俺はなんも知らないのに勝手に先走ったりするなよ」
「はは、なるべくそうするよ」
蕾生の牽制を軽やかにかわして永は笑う。ちょっと信用できそうにないので、蕾生は今後は永の一挙手一投足を注意して行動しようと心に決めた。
でないと知らないうちに永は全てを背負ってしまう。昔からそうだった。それが蕾生はいつも悔しい。
「じゃあ、まずどうする?」
蕾生の問いに、もちろんと前置いて永ははっきりと言った。
「リンを取り戻す」
その視線が向かうのは銀騎研究所。
白くて大きな、高い壁がそびえ立っていた。
蕾生の問いに、永は少し首を傾げた後、やや左右に振って息を大きく吐く。
そうしてから、蕾生を見つめてゆっくりと言った。
「──鵺を殺したから、僕らは呪われたんだ」
その瞳には深い怒りを宿していた。
「鵺は帝を呪い殺したかったんだろう。だけど、その途中で僕らが奴を仕留めてしまった。だから恨まれた」
そう語る永の表情は、蕾生が初めて見るものだった。
今まで他人の事は適当に受け流して飄々としていたのに、こんなに明確な憎しみ、こだわりとも言えるような感情を向ける対象が彼にあったとは。
「一番濃い呪いってのはどういうやつなんだ?」
突然の告白、思い出せない運命。それから、永の中にあった蕾生の知らない感情。
蕾生の頭は疑問ばかりで、結局同じようなことを何度も聞いてしまう。
すると永は突然表情を強張らせた。
「……やっぱり、そこ、気になるよね」
「そりゃ、そうだろ。具体的にはどんな呪いを俺達はかけられたんだ?」
蕾生が食い下がると、永はうーんと唸ってかなり迷った仕草をした後、ヘラリと笑って言った。
「ごめん、まだそれは言えないや」
「ハァ!? お前、ここまで言っといてふざけんなよ!」
急にいつもの人を喰ったような態度の永に、蕾生はつい声を荒らげた。けれどそれでも永は首を振ってなだめるように言う。
「徐々に! 徐々にライくんが僕らの状況に慣れてから言うから」
「なんだよ、それ。そりゃ、俺はバカだから一気に言われても理解できないかもしれないけど──」
蕾生は率直な気持ちを、真っ直ぐに永を見て言った。
「お前が俺の分まで何かを背負ってるなら、一緒に持ちたいだろ……」
「ライ……」
永が知らないところでずっと何かを抱えて、悩んでいた。
それを考えるだけでも蕾生は胸が苦しくなる。きっと永にもそれは伝わっているんだろう。
けれど永は唇を噛み締めて、あえて明るく言う。
「──でもダメでーす! 今日はここまででーす!」
「永!!」
「……あんまりこういう言い方はしたくないんだけど、僕は鵺の呪いを解くために三十三回同じことを繰り返してきた」
「──」
「わかる? 僕はね、三十三回も失敗してるんだよ」
具体的に出された数字の重さに蕾生は絶句した。
「その僕が、今は話すべきじゃないと思ってるんだ。どうか尊重して欲しい」
蕾生には計り知れない経験の差があると、永はそう言っていた。
「今日、研究所に君を連れてきたことはかなりの賭けだった。一歩間違えれば即ゲームオーバーの恐れもあったんだ」
「そう……なのか?」
「うん、だけど僕らはその賭けに勝った。リンのことは想定外だったけど、賭けに勝ったと思ったから今こうして君に話してる」
「──わかった」
蕾生は納得するしかなかった。他でもない、永がこう言っているのだから。
「ありがとう」
「ひとつ、確認するぞ」
「うん?」
蕾生は再び真っ直ぐに永を見た。
「俺達はこれから、鵺の呪いを解くために行動する。そうだな?」
俺達、の部分に力を入れて言うと、永は満足そうに微笑んだ。
「うん、上出来だ」
「今日みたいに、俺はなんも知らないのに勝手に先走ったりするなよ」
「はは、なるべくそうするよ」
蕾生の牽制を軽やかにかわして永は笑う。ちょっと信用できそうにないので、蕾生は今後は永の一挙手一投足を注意して行動しようと心に決めた。
でないと知らないうちに永は全てを背負ってしまう。昔からそうだった。それが蕾生はいつも悔しい。
「じゃあ、まずどうする?」
蕾生の問いに、もちろんと前置いて永ははっきりと言った。
「リンを取り戻す」
その視線が向かうのは銀騎研究所。
白くて大きな、高い壁がそびえ立っていた。